賃貸借物件(貸事務所、貸店舗、賃貸マンション、アパートなど)のトラブル、明け渡し請求、立ち退き料
弁護士による建物賃貸借契約の相談 賃貸借契約終了の正当事由と立ち退き料
内藤寿彦法律事務所
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弁護士内藤寿彦
 (東京弁護士会所属)
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2012/08/01
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2016/10/20
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立退料の相場・金額

立ち退き料の相場】
【賃貸人側の事情】
【賃借人側の事情】
【裁判所の傾向】
 ●バブル時代の判決は参考になりません
 ●経済的損失額と立ち退き料
 ●裁判所での和解交渉
借家権価格とは】

【立ち退き料の相場】
 相談に来られる方が賃貸人の場合でも、賃借人の場合でも、「立ち退き料の相場はいくらですか」という質問を受けますが、個々のケースごとに違います。更地価格の何%などという相場はありません。(*1)
 月額賃料額の何ヶ月分という相場もありません。話し合いの場合、たまたま、それで折り合いがつくということはあり得ますが、裁判所はそのような算定方法をとっていません。立ち退き料は、同じ賃料額でも、賃借人が物件を何のために使用しているかで、全く違います。住居として使っているのか、事務所(オフィス)として使っているのか、飲食店として使っているのかなどで、全く違います。

 裁判所の傾向ですが、ある程度の正当事由がある場合、立ち退きによって賃借人に発生する経済的損失をベースにして、それを調整して立ち退き料を決めています。(*2)
 ただし、その場合も、賃貸人側の都合(契約を終了させたい理由)と賃借人側の都合(その物件を使う必要性)の兼ね合いが重要になります。

(*1)借地の場合も、立ち退き料の問題が発生します。借地は、借家と違って取引の対象になるため(地主が承諾しない場合には、承諾に代わる裁判所の許可の制度があるため、地主が承諾しなくても取引ができます)、取引の相場価格となる「借地権価格」が存在します。しかし、借地権価格相当のお金を払えば正当事由が認められて立ち退きが認められる、というわけではありません。その意味では、借家も借地も考え方は共通です。それでも、それぞれに特有の問題があります。ここでは、建物の賃貸借(借家)の立ち退きを前提にお話します。
(*2) 後でお話しますが(「裁判所の傾向」の中の、「経済的損失額と立ち退き料」でお話します)、この経済的損失の計算方法も、一定のものがあるようで、ないようなものです。賃貸人側は低く算定し、賃借人側は高く算定する傾向があるからです。特に、飲食店や娯楽施設などの場合に大きな差がでることがあります。裁判所が判決する場合、それらの算定の間を取るわけではなく、双方の算定を参考にして妥当と思われる算定をした上で、さらにそれを調整して立ち退き料を決めるという方法を採っているものが多く見られます。

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【賃貸人側の事情】
 賃貸人側の都合として、賃貸人自身が住居や営業のためにどうしても賃貸物件を使う必要がある、という場合は立ち退き料は低くなります。
 しかし、他にも物件を所有している場合には、そうはいきません(他の物件が使用できるなら、わざわざ、賃借人を立ち退かせる必要はない、ということになります)。
 建物の建て替えの必要性についても、早急に建て替えなければ危険だという場合には、立ち退き料は低くなりますが、古くても使用するのに問題がない場合には低くはなりません(耐震強度不足の建物を建て替えたいという場合は、「立ち退き料に影響する事情」をご覧ください)。
 土地の有効利用を図るために、建物の建て替えをしなければならない、という場合も、賃貸人側に有利な事情として考慮されますが、他の理由に比べると立ち退き料は高くなる傾向にあります。ただし、これも程度問題で、単に立派な建物に建て替えたいという場合(古い建物より賃料を高額に設定することができて、一種の有効利用にはなりますが)には、正当事由が認められるかどうか微妙な場合もあり、その場合には相当高額の立ち退き料を払わないと解決しません。
 なお、もともと賃貸人でなかった人が物件を買い取って、立ち退きを求める場合、ケースによりけりですが明け渡し自体を認めないという判決が出ることもあり得ます。これから建物を買い取ろうとする場合には注意する必要があります。(*)

(*) 東京高裁平成4年6月24日判決。「賃貸人の交代によって賃借人が予想しない不利益を被るいわれはない」というのが理由です。一般論としてはそのとおりだと思います。例えば、最初から自己居住の目的で、賃借人のいる建物を安い値段で購入して、自己使用の必要性を理由に立ち退きを求めるような場合、正当事由があるとは言えません。これに対して、老朽化した建物を建て替えをする場合には、建物の所有者が変わっても、土地の有効利用という意味では変わりはありません。つまり、所有者が変わったという事情がどう考慮されるのかは、一概には言えません。上記の東京高裁の事案は、少々複雑で、最近の裁判所の傾向から見ると、賃貸人に厳しいのではないかと思います。しかも、借地の事案ですから、借家(建物賃貸借)についてどこまで参考になるのか疑問です。

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【賃借人側の事情】
 賃借人側は、現実にそこに住んだり、営業に使っているわけですから、物件を使う必要はあります。(*1)
 それでも「どうしてもそこでなければならないのか」という点では、賃借人によって、かなりの差があります。
 住居として使っている場合も、単身で住んでいて他の物件に転居してもほとんど影響ない、という場合があります。家族で住んでいる場合には、子どもが小さくて転校しなければならなくなるので転居できないという場合があります。
 営業用の物件の場合でも、色々あります。例えば、事務所として使っている場合には、特に得意先が物件の周辺に多いという場合でなければ、どうしてもその物件でなければならないとは言えないことになります。また、得意先が周囲に多い場合でも、事務所の場合、近所に代わりの物件がある場合があります。逆に、周辺住民が得意先の飲食店や、駅前など集客上有利な場所にある飲食店などはその物件でなければならない事情が強いと言えます(*2)

(*1)使用していないのに賃借している場合もあります。その場合は使用の必要性は大変に低いと評価されます。
(*2)この違いは移転先がどこになるのか、ということにも影響します。想定される移転先に移転した場合、賃料が上がる場合には、賃料の差額補償の問題が起きます。また、移転した場合に従来の売上を維持できないと想定される場合には、営業補償(得意先喪失補償)の問題が起きます。

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【裁判所の傾向】
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・バブル時代の判決は参考になりません

 裁判ではどんなものかと言うと、個々の事案ごとに賃貸人側、賃借人側の事情が異なるために、立ち退き料の金額は個々ばらばらです。また、時代背景も金額に影響しています。バブル期は当時の状況を反映して、立ち退き料が非常に高額でした。バブル期やそこから近い時期の裁判例は、現在の裁判所の立ち退き料の金額を予測するための参考になりません。

 また、最近の判決を見ても、この案件なら、いくら、というように自動的に立退料の金額が分かるようなことはありません。この種の事案が少ないことはないのですが、ほとんどの場合、裁判になる前に話し合いで解決したり、裁判になっても和解で解決して、判決まで行くのは、事件全体の数からするとかなり少ないと思われます(和解での解決の中には、賃貸借契約を継続する形で和解するものもあります)。
 また、東京地方裁判所が言い渡した最近の判決の中から、似たようなケースを比較しても、どうしてこちらがこの金額なのに他方はこの金額になるのか分からないものもあります。裁判官が、判決に至るまでの双方の対応(提示金額や要求金額)などを考慮して、解決が可能な金額を検討した結果が反映されていると思われます。ただし、そのことが判決の理由の中に明確に書かれることはほとんどありません。
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経済的損失額と立ち退き料
 判決から裁判所の傾向を見ることは難しいのですが、立ち退きに伴って賃借人に発生する経済的損失は補償しましょう、という傾向はあります。
 例えば、住居の場合、最低限、移転に要する費用(引越費用の他、新しい物件を借りるための費用)は必要です。家族で居住している場合には、それだけでもかなりの金額になります。また、営業用の場合には、移転のための費用の他に営業補償が必要とされる傾向があります。

 営業補償の内容も個々様々です。
 特に、飲食店などの場合には(あくまでも、その場所での営業が順調な場合ですが)、移転先店舗の内装費、他の場所で営業ができるまでの期間の補償の他、売上が順調になるまでの期間の補償まで必要だとされることがあります。

 なお、賃借人に発生する経済的損失額が、立ち退き料の算定に考慮されるとは言え、必ずしも、経済的損失額がそのまま立ち退き料になるわけではありません
 最近の裁判例で、「賃貸人に一応の正当事由があるので、相当の立ち退き料の支払いがあれば、立ち退きを認める」ことを前提として、賃借人(事業者)の立ち退きによる経済的損失額を算定した上で、「賃貸人側にも一応の正当事由があるので、賃借人側の経済的損失の全額を立ち退き料とするのではなく、その一定の割合を立ち退き料とするのが相当である」とした判決があります。つまり、賃借人に発生する経済的損失額よりも、低い金額を立ち退き料の金額にした判決です(複数ありますが、中にはこのように言いながら、賃貸人側が提示した立ち退き料額の2倍の立ち退き料を認めたものもありますから、判決までの当事者のやりとりが考慮されている可能性が高いと思います)。いずれにしても、これは、賃貸人側に一応の正当事由があることが前提です。

  また、経済的損失額の計算方法は、公共用地の取得の補償基準を参考にすることが多いのですが、それでも差がでます。公共用地取得の補償基準というのは、国や自治体が、公共事業のために賃借人などに立ち退きをさせる場合の補償基準です。不動産鑑定士は、これを参考に立ち退き料の鑑定をするのですが、それでも、差がでます(かなり大きな差がでることもあります)。このため、賃貸人、賃借人双方から異なる金額の鑑定書や意見書が裁判所に提出されることは、珍しくありません。

 賃貸人側が提出した、公共用地の取得基準をかなり厳しく適用した(賃貸人に有利なように低く見積もった)と思われる鑑定書の経済的損失額(賃借人に発生する経済的損失額)に対して、その金額に「狭義の借家権価格」(土地の価格の一定割合を立ち退き料に加算する計算額)を上乗せしたものを立ち退き料とした裁判例もあります。この場合は、見かけの上では、経済的損失以上の立ち退き料を認めたことになりますが、実際には、賃貸人側が算定した経済的損失額が、裁判官から見て低すぎると評価されたことが原因だと思います。
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裁判所での和解交渉
 この種事案では、判決で終わる前に裁判官は、和解を勧めます(裁判所での和解は判決と同じ効果があります)。和解が成立するためには、賃借人側が納得する金額(これも人それぞれですが)と賃貸人の予算との調整になります。和解交渉になると、それまで双方が書面で緻密に主張を展開していたのが嘘のような大雑把な話になることは珍しくありません。そうでもしないと解決しないからです。だったら最初から大雑把な話をすればいいじゃないかと思うかも知れませんが、大雑把な話と言っても、それ以前の緻密な主張が前提になっています。

 交渉と言っても、主導するのは裁判官です。和解ができない場合には、裁判官は、判決を書きます。このため、裁判官は、将来の判決を考えた上で当事者双方の調整をします。弁護士としては、裁判官が、賃貸人、賃借人双方の事情をどのように見ているのか考えながら、和解に臨む必要があります。その上で、こちらの主張をどこまで通すか、妥協するのか、裁判官の顔色を見たり(和解の時は当事者ごとに裁判官と話をします。このため、裁判官が判決の見通しを明確に発言することもあります)、相手方の腹を探りながら、検討していくことになります。

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借家権価格とは】
 立ち退き料の相談を受けるときに、借家権価格はどうなりますかと聞かれることがあります。
 借地の場合には、借地権価格というものが実際に存在します(借地権価格や借地権割合については、「借地の法律相談」の解説をご覧ください)。しかし、建物賃貸借で借家権価格というものが実際に存在するかと言われると、答えは「ありません」というのが正解だと思います。(*1)

 借地の場合、地主に承諾料を払うことが条件になっているとは言え、借地権を第三者に売ることが可能です。地主の承諾がなくても、裁判所が承諾に代わる許可を出してくれます(借地の譲渡や許可の裁判については「借地の譲渡」をご覧ください)。そのため、取引の相場価格があり、「借地権価格」というものが存在します。

  ところが、建物賃貸借、つまり、借家の場合、権利を第三者に売ることができません。賃貸人の承諾があれば、売ることはできますが、裁判所の許可の制度がないので、家主が承諾するかどうかは自由です。このため、特殊な場合を除いて、売買取引の対象になりません。その結果、売買の相場価格のようなものができません。それなのに、「借家権価格」があるというのは、おかしな話です。

 また、「借家権価格」と「立ち退き料」の関係というと、ますます曖昧な話になります。
 借地の立ち退きの場合でも、借地権価格相当の立ち退き料を払えば地主に正当事由が認められるのか、というと、そのようなことはありません(地主が借地権を買い取る場合に、その代金額を借地権価格にする、ということはよくあります。しかし、これはあくまでも、地主と借地権者が合意した場合です)。建物賃貸借の場合も、借家権価格相当の立ち退き料を払えば正当事由が認められるということにはなりません。また、立ち退きを要求されている賃借人も、借家権価格相当の立ち退き料がもらえるというわけではありません。

 それでも、実際に借家権価格というものの算定方法というものがあります。しかし、借地権価格のように更地価格の何割みたいな簡単なものではありません。しかも、発想が全く違った計算方法が複数あります。要するに曖昧なのです。

 こうした事情のため、東京高裁の判決例(平成12年3月23日判決)は、賃借人の経済的損失の補償に加えて、借家権価格を立ち退き料の算定に考慮することを否定しました。

  では、借家権価格の算定は意味がないのかと言うと、そうでもありません。東京高裁の判決後も、東京地裁などで立ち退き料を決める際に、借家権価格を考慮した判決が出ています。ただし、判決理由を読むと、その多くは、借家権価格そのものを考慮したというよりは、借家権価格の算定の意見書の中に書いてある賃借人の経済的損失を、立ち退き料算定に考慮したという印象です(ただし、判決を読むと、当事者が出した何らかの意見書を参考にしていることは分かりますが、意見書の中身を具体的に引用しているものは少ないです)。(*2)

 しかし、このような実質的な経済的損失補償の他に「狭義の借家権価格」というものを立ち退き料を算定する際に考慮した判決が最近でもあります(東京地裁平成25年9月17日判決など)。判決では「狭義の借家権価格」の計算方法までは書いてありませんが、賃料の差額補償などではなく、土地の更地価格の割合計算から出したものと思われます。(*3)
 ただし、事案は事業用の物件で賃借期間が30年になる上、原告側(立ち退きを求める賃貸人側)の提出した鑑定書の金額では低額過ぎるので、その調整をするために狭義の借家権価格というものを持ち出したという印象があります。

 この他、狭義の借家権の計算方法の中でも金額が大きくなる「借家権割合方式」を正面から認める裁判例もあります。不動産鑑定書にそのことが書いてあるので、これを無視できなかったのだろうと思います(採用しないと断言している判決もあります)。しかし、採用した後の処理については、明確な理由がしめされないまま、その何分の1を立ち退き料としています(要するに減額しています)。判決に書いてない事情(裁判中の和解の状況など)が考慮されたのかも知れませんが、判決だけからは分かりません。中には、狭義の借家権価格を検討して、特定の鑑定人の鑑定を採用するとした上で、最終的には、同じビルの別のテナントに支払われた立ち退き料額と比較して立ち退き料を出した判決もあります。これなどは、何のために狭義の借家権価格を検討したのかと思います。

(*1)用語の混乱(用語が一定ではない)ということもあります。不動産鑑定士が使う用語で「借家権価格」というのは、移転に伴う賃借人の経済損失に対する補償額を指します。これは「立ち退き料」そのものとも言えます。これに対して、一般に言う「借家権」は、「借地権」と同じように、 建物の賃貸借によって賃借人が持っている権利(これが立ち退きの時に問題になる)のことを言います。不動産鑑定では、立ち退き料と同じ意味の「借家権価格」と区別して、「狭義の借家権」という言い方で通常の移転に伴う経済損失とは別のものを言うことがあります。

(*2)狭義の借家権の算定方法の1つに、移転前の賃料と移転先の賃料の差額を考慮して算定するものがあります。これは実質的には賃料の差額補償です。これは公共用地取得の補償基準でも補償の対象になっています。つまり、不動産鑑定士の評価書で「狭義の借家権」の中で算定している場合でも、賃料差額補償は、移転に伴う経済的な損失として一般的に認められています。

(*3)借家権割合方式という計算方法ですが、実は、この計算方法は、昨日借りた場合でも、30年前に借りた場合でも、同じ金額になります。計算方法自体に、借りていた期間が考慮されていないのです。 また、業種その他、賃借人側の具体的事情も考慮されません。

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