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内藤寿彦法律事務所
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弁護士内藤寿彦
 (東京弁護士会所属)
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2012/08/01
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2016/10/20
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賃貸物件の事故(火事と自殺)

【賃貸物件の火災・火事】
 ~賃貸人に責任がある場合を中心に
【賃貸物件内での賃借人の自殺】
 ~告知義務・損害賠償の範囲など

【賃貸物件の火災・火事】

Q.木造のアパートを所有していましたが、火事で全焼してしまいました。賃借人から当面のホテル代や補償を求められていますが応じなければなりませんか。

A.火災の原因によっては、補償に応じなければならない場合もあります。
しかし、火事の原因についてあなた(賃貸人)に責任がない場合には補償の責任はありません。

●賃貸人に火災の責任がある場合
・自宅と賃貸物件が一棟の場合
 まず火事の原因について賃貸人に責任がある場合です。特に問題になるのは建物の一部があなた(賃貸人)の自宅になっている場合(自宅と賃貸物件が一棟になっている場合)で、あなたの自宅部分から出火した場合です。
 この場合は、あなたは賃借人に対して責任を取らなければなりません(東京高裁昭和49年12月 4日判決など)。
 失火責任法という法律があって、故意または重過失がない限り、火災の責任は取らなくてもいいことになっていますが、賃貸人と賃借人とは契約関係があるため、賃貸人の失火による場合には、故意や重過失がなくても、賃借人に対して責任を取らなければなりません。

・責任の範囲
 この場合の責任の範囲ですが、まず、焼失したり消火のために使用できなくなった賃借人の家財について、賠償責任があります(最高裁平成 3年10月17日判決)(ただし、新品の価格ではなく、中古品としての価格で賠償する責任があります。この点は焼け出された側からすると不満です)。
 問題は、その他どういう責任を取るかということになります。すでに受領していた当月分の賃料のうち、居住不能になった日以降の賃料は返還しなければなりません。敷金も返還しなければなりません(これらは当然のことで損害賠償とは言えません)。当面のホテル代、新しい物件を賃借する際の手数料、被災しなかった動産類の保管や運送料なども賠償責任の範囲に入ると考えられます。賃借人が事業用に物件を使っていた場合には、営業補償の問題も生じます。

・火災保険では対応できません
 通常の火災保険の場合、建物や賃貸人自身の家財について保険が支払われるだけで、他人に対して損害賠償をするお金は保険の対象外です。
 火災保険に個人賠償責任保険特約を付けた場合、他人に対して支払わなければならない損害賠償金について保険金が出ます。ただし、どの場合に、いくらまで保険金が出るのか、保険会社によって異なります。契約する前に保険会社に確認する必要があります。なお、自動車保険の付加保険の個人賠償責任保険にも、「建物の使用、管理によって他人に損害を負わせた場合」に無制限で、損害を負わせた相手方に対して損害賠償金を支払うというものがあります(あくまでも法的に責任がある場合です)。
 いずれにしても、自宅とアパートなどの賃貸物件が一体となった物件を所有している場合には、火災で賃借人に損害を負わせた場合に適用される保険に入っておくべきです(仲介業者は賃借人には火災保険に入るように言いますが、賃貸人には言いません)。個人賠償責任保険に入らないで、万一自宅から出火して賃借人が死亡するなどした場合には、自宅やその敷地を処分しても賠償金が足りないという最悪の事態もあり得ます。

・自宅と賃貸物件が別棟の場合
 裁判例で賃貸人の責任が認められたのは、賃貸人の自宅部分と賃貸物件が一棟の建物になっていたケースです。賃貸人の住居とアパートなどの賃貸物件が別棟になっている場合、賃貸人の住居から失火して、アパートまで延焼した場合に同様の責任を取るのかは、明確な裁判例が見当たらず(判決の理由の中で否定的な見解を示しているものはあります。東京高裁昭和49年12月 4日判決)、2棟の建物の位置関係など微妙な話になると思われます(例えば、非常に接近している場合などは一棟の場合と同じと判断される可能性があります)。

●賃貸人に火災の責任がない場合(賃借人に責任がある場合など)
 次に賃貸人に火災の責任がない場合です。この場合、家賃の日割り分や敷金の返還は当然ですが、それ以上の賠償などの義務はありません。賃貸人には修繕義務など、賃借人に建物を貸す義務がありますが、全焼した場合にアパートを再築する義務はありません(火災の程度が軽微でそれほどの費用をかけなくても修繕可能な場合には、修繕する義務があります)。

 また、賃借人に失火の責任がある場合には、賃借人は賃貸人に対して建物の損害などについて賠償責任があります。この場合も失火責任法の対象外です。賃借人が契約する火災保険の中には、賃借人自身の家財が消失した場合の保険に加えて、賃借人から賃貸人に対する損害賠償責任をカバーする保険(借家人賠償責任保険といいます)がセットになった保険があります。
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【賃貸物件内での賃借人の自殺】
●建物の価値は下がります
 建物内で自殺があると、建物の価値は下がります。リフォームなどして完全に元の状態に戻し、建物自体は自殺前と全く変わらなくても、建物を買おうとする人の中には自殺があったことを気にする人が少なくありません。一種の心理的な問題ですが、自殺がない場合よりも価格を下げないと売れないということで価格が下がります。
 不動産鑑定の実務でも自殺があった場合は、2割くらい評価を下げます(実際に売る場合にはもっと低くなるかも知れません)。裁判所が競売物件を売りに出す場合、不動産鑑定士に評価を依頼しますが、その評価書でも自殺を理由に2割程度の減額をします。裁判所もその評価書を競売物件を買おうとする人に公表しています。

●自殺があったことを隠して売却すると損害賠償です
  また、こうした建物を売りに出す場合、自殺があったことを隠して売った場合には、後で買主から損害賠償を請求される可能性があります。
 裁判例では売買契約の解除が認められた例もあります(大阪地裁平成21年11月26日判決)。解除が認められると、売買代金全額を返還しなければなりません。その他に損害賠償金を払わなければならないこともあります(損害賠償のみを認めた裁判例として、東京地裁平成21年 6月26日判決や東京地裁平成20年4月28日判決がありますが、平成20年の判決はやや特殊な事案です)。
 逆に、損害賠償が否定された例もあります。例えば、購入後に建物を取り壊すことを前提に土地建物を購入した買主が、建物内での自殺を隠していた売主に損害賠償請求をした事案で、買主の損害賠償請求が否定された裁判例があります(大阪地裁平成11年 2月18日判決)。

●賃借人の相続人などに損害賠償できるか
 賃借人が賃貸物件の中で自殺した場合、賃貸人(建物所有者)は、賃借人の相続人や連帯保証人に損害賠償ができるでしょうか。
 結論を言えばできます。(*1)
 その理由は、ある判決によると、「賃借人は、建物の経済的価値を下げないようにする義務がある。自殺は心理的な理由で建物の経済的価値を下げる。このため、自殺は、賃借人の用法義務違反ないし善良な管理者としての注意義務違反にあたる。つまり、契約違反だから損害賠償義務がある」ということです(東京地裁平成23年1月27日判決。事案は賃借人の同居人が自殺して賃借人が損害賠償を求められたものですが、賃借人本人の自殺の場合も同じ理屈になります。賃借人自身の自殺について損害賠償を認めたものとしては、東京地裁平成22年12月6日判決など)。
 無論、本人は亡くなっていますから、その相続人あるいは連帯保証人がその賠償責任を負うことになります。ただし、遺族の場合、相続放棄をすれば相続人としての責任はなくなりますが(*2)、連帯保証人を兼ねている場合には責任が残ります。

(*1)ここで連帯保証人というのは、親族など、一般の連帯保証人のことです。賃料保証会社の場合には、保証の範囲が契約で決まっていて、賃借人が自殺した場合の責任は、保証の対象外としています。

(*2)債務の相続については「相続の法律の基礎知識」の「債務の相続」をご覧ください。

●損害賠償の範囲
 先ほどお話したように不動産鑑定の実務でも自殺があると建物の評価額が2割程度下がります。
 賃貸物件の中で賃借人が自殺した場合、賃貸人は、連帯保証人や遺族に対して、この建物の減額の賠償を請求できるでしょうか。
 結論を言えば、裁判所は、建物の減額の賠償までは認めない傾向にあります。
 理屈は、色々あります。評価額が下がると言っても、損害は将来売る時に具体的に発生します。その時までの年月の経過によって建物の価値は自然に下がりますし自殺という事実も風化します。そのため、「本来いくらで売れるものが自殺が原因でいくら下がったのか分からないし、そのことをまだ売ってもいない現時点で判断することはできない」というのが一応の理由のようです。判決に書かれることはありませんが、自殺者の遺族らに酷という実際上の理由もあるのではないかと思います。

 そのようなわけで裁判で認められる損害賠償額は、
①リフォームなどに実際にかかった費用(あくまでも自殺に関係する部分です)
②特別なリフォームを施したため長期的に物件を貸せなかった場合はその期間の賃料補償、自殺直後には募集できないということで一定期間募集を停止した場合の賃料補償
③当該賃貸物件を第三者に貸すにあたり数年間は通常よりも低い賃料で賃貸せざるを得ないので、その差額分の賃料補償
といったものです。
 なお、自殺後に新規契約をした場合、③の金額は具体的にでてきますが、まだ、新規契約をしていない場合には最終的には裁判所の裁量で減額の範囲を決めることになります。
 また、③の賃料を安くせざるを得ない期間は、実際はかなり長期になると思いますが、裁判所の判決では3年程度が多いようです。

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弁護士 内藤 寿彦  東京弁護士会所属

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