遺産分割・遺言・その他様々な相続に関わる法律問題のご相談をお受けします
弁護士による相続の法律相談 弁護士による遺産分割・遺言・相続の法律相談
内藤寿彦法律事務所
東京都港区虎ノ門5丁目・日比谷線神谷町駅徒歩1分

相続弁護士ホーム 相続の基礎知識 遺産分割などの費用 よくある質問 相続コラム 遺言コラム アクセス お問い合わせ
         

法律相談 初回30分無料

弁護士内藤寿彦
 (東京弁護士会所属)
プロフィール
ニュース
2012/08/01
Webサイト公開しました。
2016/10/20
サイトリニュアルしました。
随時、更新しています。
取扱い案件
不動産関係、相続競売、一般民事事件、会社関係、損害賠償事件 。。。
その他ご相談ください。
 
執務時間
 
法律相談のお問い合わせ
 
「お問い合わせ」をご覧ください。
 

相続の弁護士・ホーム相続の基礎知識相続・遺産分割の費用
よくある質問~相談までの流れと費用など| 相続コラム~相続にまつわる色々な話
遺言コラム~遺言書にまつわる色々な話 | アクセス | 法律相談のお問い合わせ

相続コラム

相続にまつわる色々な話
※お探しの記事が見つからない時は、「相続の弁護士・ホーム」の「相続の相談例」や「相続の法律の基礎知識」「遺言コラム」をご覧ください。
※2016年12月19日、最高裁が判例を変更して、預金が遺産分割の対象になることになりました。記事をこの判例変更に対応させました(2017.2.13) 。

相続と不動産
不動産がずっと昔に亡くなったおじいさんの名義のままになっていませんか。
 ~遺産分割未了で取得時効は成立する?遺産分割協議はどうする?
他人の不動産が亡くなった人の名義になっている・・・
 ~そのまま遺産分割手続が進んでしまうと・・・
共同相続人に家賃の支払いを請求できるか
 ~分割前に遺産(家)にただで住んでいる・・・
不動産の評価
 ~相続財産の評価で得する人、損する人
自分の経営する会社に土地やお金を貸している場合の評価額
●借地権の相続
借地の相談「借地権の相続」をご覧ください。)

相続財産の範囲や調査
死亡退職金、弔慰金は相続財産ではありません
亡くなった人の預金が引き出されていた 
 ・亡くなった人の預貯金の調査
 ・亡くなった後で預金が引き出されていた場合
 ・金融機関を相手に裁判をする場合もあります
 ・亡くなる前に預金が引き出されていた場合

遺産分割協議
遺産分割協議がまとまったのに分割協議書に判子がもらえない
相続分の譲渡 ~協議成立前に他の共同相続人から権利をもらう
相続人に未成年者がいる場合

相続と会社
非上場会社の株式の相続と会社への対抗
自分の経営する会社に土地やお金を貸している場合の評価額

相続と第三者の権利
債務者が亡くなって相続が発生した場合
相続人の債権者による不動産や預金の差し押さえ 
 ・相続人の債権者が相続財産を差し押さえるという意味は
 ・差押えがあった場合と遺産分割協議
 ・差押えの前に遺産分割協議をしていたら
 ・銀行預金の差押え
 ・相続の放棄をした場合
 ・遺言書がある場合

相続の裁判手続
相続事件は家庭裁判所、地方裁判所?~遺留分減殺請求と調停など
弁護士の利益相反禁止と相続事件
--------------------------------
相続と不動産
●不動産がずっと昔に亡くなったおじいさんの名義のままになっていませんか
・名義を変えないともっと面倒なことになります
 不動産の登記の名義が亡くなったおじいさんのままになっている、ということは、世の中、珍しくありません。

 おじいさんが亡くなった時に遺産分割の話もなく、だいたいはおじいさんの長男やその子(おじいさんの孫)がそのままおじいさん名義の土地や家に住んでいたりします。

 おじいさんが亡くなった後でおばあさんが亡くなり、その後で、長男(おじいさんの子、孫からみるとお父さん)も亡くなると話はややこしくなります。
 それでも、お父さんが一人っ子で兄弟がいなければ、そんなに面倒なことにはなりませんが、今と違って、昔は一人っ子というのは少なく、4人、5人、それ以上の兄弟も珍しくありません。
 そんな状態で何十年も経っていることがあります。
 誰も文句を言わなかったので、そのままにしておいてもいいかと思います。
 しかし、家を建て替えようとしても、土地を担保に金融機関からお金を借りることができません。お金を借りる必要がない場合でも、孫・子の代になり、親戚づきあいも希薄になり、この種の問題の解決は難しくなります。時間が経てば関係者の数が増え、ますます面倒なことになります。住所が分からなかったり、住所が分かっても遠方に住んでいたり、海外に住んでいる場合もあります。すぐに不動産を担保にお金を借りたいという場合には、手の打ちようがないことになります。

・時効で取得した、ということにはなりません
 もう何十年もおじいさん名義の土地や家を使っているのだから、時効で自分のものになるんじゃないか、と誰でも考えます。このようなケースでは、住んでいる家に固定資産税の請求が来るので、ずっと固定資産税などを払っています。ただで使っていたわけじゃないのだから、自分のものになるだろうと考えます。20年以上も占有していれば、他人の物でも時効で自分のものになるのだから、この場合も時効で自分のものになるのではないかと考えるわけです。
 しかし、裁判所は、この場合には取得時効は成立しないと言います。(*)
 つまり、遺産分割協議をしない限り、何十年経っても、自分のものにはならないのです。
(*)他に相続人がいることを承知していた場合には、取得時効は認めない、というのが、裁判所の考え方です。

・遺産分割協議と登記手続
 この場合の分割協議ですが、おじいさんの相続人が亡くなっている場合(おじいさんが亡くなった後で亡くなった場合)には、その相続人の相続人が、「相続人○○の相続人」という立場で分割協議に参加することになります。かなり複雑な感じになります。そして、亡くなったお父さんが問題の不動産を取得したという分割協議書を作成します。次に亡くなったお父さんからの相続でその不動産を自分(おじいさんの孫)が取得したという分割協議書を作成します。登記簿には、一旦、亡くなったお父さんが所有者として表示されます。そして、そこから自分が相続で所有権を取得したことが表示されます。こうして、おじいさん名義の土地が自分の名義になります。

・取得時効には税金がかかります
 特別な例外的な事情のある場合、取得時効が認められることもあります。
 しかし、裁判で取得時効が認められると、税金の問題が発生します。時効で取得したと主張した時に、土地の価額(時価)の半分が一時所得となり、他の所得(給料など)と一緒に課税されます。これがかなりの高額になる場合があります。ある程度、関係者(共同相続人)にお金を払ってでも遺産分割協議をした方が安いかも知れません。

 また、上記のとおり、取得時効の場合は税金がかかりますが、遺産分割の場合には、相続税の申告期限から5年で時効が成立します。つまり、おじいさんが亡くなってから何十年も経っていれば、おじいさんの相続については時効により相続税を納める必要はありません。ただし、登記がおじいさん名義のままでも、おじいさんの相続人(例えばお父さん)が亡くなれば、別の相続が発生したことになります。つまり、最近亡くなった人の分については、相続税を納める必要がある場合があります。

▲TOPへ
●他人の不動産が亡くなった人の名義になっている・・・
・遺産分割しても相続人のものにはなりません
 遺産分割をしようという時に相続財産かどうかが争いになることがあります。家庭裁判所の調停や審判で、その財産が相続財産だという前提で遺産分割をしても、第三者が裁判を起こして、亡くなった人の財産ではなくてその第三者のものだと認められると、その財産は第三者に取り戻されてしまいます。そのため、遺産分割を初めからやり直さなければならないこともあります。

 つまり、第三者の側からすると、遺産分割協議が進められていても、結果的に財産を取り戻すことができるわけです。偽造書類が使われて勝手に自分の不動産が赤の他人の名義になっていたというような場合もあるかも知れませんが(相続絡みでは経験がありませんが、世の中にはそんな事例もあるかも知れません)、通常は何らの人間関係がある人の間で、登記名義を亡くなった人のものにしていた、という場合が多いと思います。

・こんなことがあると他人の不動産が被相続人名義になります
 例えば、こんな話がありましたる。Aさん(男性)がBさんと結婚して、家を購入するのですが、その時にBさんのお母さん(Cさん)の名義で登記しました。Aさんは婿入りみたいな感じですから、Bさんのお母さん(Cさん)に気を使ったということです。60年くらい前の話です。これだけの話だと、家の購入資金をAさんが出してCさんに贈与したという可能性もあります(その場合は家はCさんのものです)が、その他、色々な事情や証拠がありました。

 その後、何十年も経ち、先にAさんが亡くなり、それからさらに時が経ってCさん(お母さん・家の名義人)が亡くなりました。CさんにはBさんの他にも子ども(Dさん)がいました(Cさんのご主人はAさんとBさんが結婚する前に亡くなっていました)。つまり、Cさんの子のBさんとDさんが、Cさんの相続人になります。

・不動産について裁判が起こされると遺産分割調停は進められません
 そして、DさんがBさんを相手に遺産分割の調停を起こしました。上記の家が、名義人のCさんの財産という前提です。これに対して、Bさんは「家はCさんのものではない」という裁判を起こしました(この裁判は家庭裁判所ではなくて地方裁判所に起こすことになります)。もしも、Bさんの言うことが認められると、遺産分割は無効になります。つまり、調停は、地方裁判所の裁判の結果を待たないと勧められません。このため、Dさんが申し立てた調停は、一旦、取り下げられました。

・亡くなった人から別の亡くなった人に登記名義を移す裁判
 Bさんが起こした裁判は、「真正な登記名義の回復を理由として、亡くなったCさん(お母さん)名義の登記をすでに亡くなっているAさん(夫)の名義に移す手続をしなさい」という裁判です。
 Cさん、Aさんが生きていれば普通に「Cさんは登記をAさんに移す手続しないさい」という裁判を起こすのですが、二人とも亡くなっているのでこのような裁判を起こすことになりました。(*)

 また、この裁判では、AさんもCさんも亡くなっているので、裁判の原告と被告は、それぞれの相続人になります(BさんはCさんの相続人でもありますが、自分が原告の一人ですから被告にはなりません)。このため、Bさんとその子が原告、Dさんが被告になりました。

 60年も前の話ですが、時効という手は双方とも使えず、事実関係や証拠も錯綜していましたが、結局、和解が成立し、Bさん側がDさんにそれなりのお金を払って家を自分たちのものにしました。当然、登記名義を変えるわけですが、その登記は亡くなったCさんから亡くなったAさんに所有権移転登記をする、という内容です。
 そして、その後で、Aさんの相続人のBさんとその子とでその家について遺産分割をすることになります(DさんはAさんの相続人ではないので、この遺産分割には関与しません)。登記名義がAさんになっていますから、この後は普通の手続での遺産分割になります。

(*)もしも、Aさんが亡くなっていない場合には、Aさんは、Cさんの相続人を相手方(被告)にして、「亡くなったCさん名義の登記をAの名義に移す手続をしなさい」という裁判を起こすことになります。ただし、これは、登記名義がCさん名義のままになっている場合の話です。すでにCさんの相続人の名義になっている場合には、「相続人の名義からAさんの名義に登記を移す手続をしなさい」という裁判を起こすことになります。

▲TOPへ
共同相続人に家賃の支払いを請求できるか

 親が亡くなり、3人の兄弟A、B、Cが相続人になりました。このうち、Aは相続開始前は親と同居していました。同居していたのは親が土地建物を所有していた家(自宅)です。

 Aはその家の土地建物を相続したいと主張し、B、Cは他の財産が少ないので、家を売却してその代金を均等に分けることを主張しました。
 そんなことで遺産分割協議がまとまらず、どんどん時間が経ちました。

 そして、B、Cは思います。相続財産は3人の共有なのに、Aは1人で、しかも、ただで家に住んでいる。これはおかしい・・・・・と。

 亡くなった親が遺言を遺していなければ、A、B、Cはそれぞれ1/3の相続分を持っています。家は3人の共有の状態になります。持分は1/3ずつです。つまり、B、Cの2人合わせると2/3の持分を持っていることになります。多数決をやれば過半数です。

 しかし、B、Cにとって残念な話ですが、持分の過半数があってもAを家から立ち退かせることはできません(最高裁昭和41年5月19日判決)。
 また、裁判例によると、親と同居していたAは、親の生前、親とただで家に住む契約をしていたとみなれされます。そして、親が亡くなった後も遺産分割協議が成立するまでは、この契約の効果が生きているとされます(最高裁平成 8年12月17日判決)。従って、B、CはAに対して家賃の請求もできません(*)

 ただし、これは、あくまでもAが親からただで住むことを許されていた場合です。
 例えば、親が自宅の他にも土地建物を持っていて、これをAに家賃を払わせて貸していた場合は話が違います。A、B、Cの3人でこの建物を相続したことになりますから、Aはそれまでに払っていた家賃の1/3は自分がその建物の共有者になるため払う必要がなくなりますが、2/3は、BとCにそれぞれ半分ずつ(要するに1/3ずつ)払う必要があります。
 なお、この場合も、B、CはAに対して、建物から出て行くように請求することはできません。
 AがB、Cに家賃を支払わず、この賃料が何か月分にもなった場合、B、Cの2人が合意すれば、賃貸借契約の解除はできますそれでもAに対して、建物から出て行くように請求することはできません。理由は、Aも共有者の1人だからです。

 ところで、このような場合、最終的に遺産分割はどうなるのでしょうか。
後のケースのように、親が自宅の他にも土地建物を所有していた場合は、複数の相続財産があるケースですから、それぞれの財産を3人で分けることが可能かも知れません。
 ところが、自宅の土地建物以外ほとんど財産がない、という場合は悩ましい話になります。Aが自宅の土地建物の2/3相当の資金があってこれをB、Cに支払うことができればいいのですが、そうでなければ、土地建物を売却して代金を分け合うしかありません。面倒なので3名の共有にするという選択も理屈の上ではできますが、問題の先送りにしかなりません。例えば、3人の共有にしてAがB、Cに家賃を支払って家に住むことにすることは可能ですが、Aが家賃を払わなくなった場合でも、Aを家から追い出すことはできないのは、先ほどと同じです。

(*)この場合、親が亡くなる前にAが建物に住んでいたことが、特別受益になるのではないか、という質問もよく受けますが、原則として特別受益は認められません。逆に、Aが親と同居して面倒を見ていた場合、寄与分が認められないか、という質問も受けますが、これも認められません。

▲TOPへ
●不動産の評価
 遺産分割などでは、不動産の評価額でもめることがあります。

 ・なぜ、評価でもめるのか
 例えば、相続人が亡くなった人の子・AとBの2人で、相続財産が土地建物(亡くなった人とAが同居していた自宅)と預貯金額・5000万円だった場合を考えます。そして、Aが自宅の土地建物をほしい、と言っている場合を前提にお話します( 預貯金を遺産分割の対象にするためには全員の合意が必要でしたが、平成28年12月19日の最高裁の決定で合意がなくても遺産分割の対象になりました)。

 土地建物(不動産)の評価額が例えば5000万円で、この評価額にBも異存がない場合には、Aが土地建物を相続し、Bが預貯金を相続するということで話がまとまります。
 不動産の評価額が7000万円だった場合には、相続財産の総額が1億2000万円になるので、AからBに1000万円払わないと、話がまとまりません(この場合、Aが相続財産の不動産を相続した上で、自分のお金の中から1000万円をBに支払うことになります)。
 逆に、不動産の評価額が3000万円だった場合、相続財産の総額は8000万円になりますから、Aは不動産の他、預貯金5000万円の中から1000万円を相続し、Bは残りの4000万円を相続することのなります。

 このようにお話すると、それほど難しい話ではないように聞こえるかも知れません。ただし、これはあくまでも、不動産の評価額が決まっていることを前提とした話です。
 現実には、不動産の評価額というのは、はっきりしません。
 そして、評価額がどうなるかによって、AがBにお金を払う場合もあれば、逆にBがAにお金を払う場合もあるというように、逆の結果がでることになります。

 ・不動産の評価額とは
 遺産分割の財産の評価額というのは、そのものの本当の価値ということになります。不動産だったら、売れる値段(実勢価格)ということになりますが、売ってみなければ分からないのでは、決まりません。家庭裁判所が選んだ不動産鑑定士が鑑定で決める場合もありますが、費用もかかるし、結果がどうでるのか分かりません。なんのかんの言って、当事者間で、遺産をどう分けるかが問題なのですから、当事者全員が同意した評価額にすることが多いのです。

 とは言え、何も基準がないと何も決められません。不動産業者の査定価格で決める場合もありますが、同じ物件でも、業者によって違う価格の査定が出てきます。複数の業者に査定してもらって、その平均というのもよくやることです(なんで平均でいいのか理由はありません。同意ができればそれでいいのです)。それ以外の方法としては、固定資産評価額や相続税路線価、または、それらを公示価格に修正したものを使いことが多いです。

  不動産のうち、土地の価格は、固定資産税の基準となる「固定資産評価額」、相続税の基準となる「路線価」、国が正常価格ということで公示する「公示価格」、そして、実際に取引される「実勢価格」の4種類の価格があります。
 公示価格というのは、国が正常な価格として公表する価格です。固定資産評価額は、公示価格の7割を目処に計算することになっています。また、相続税路線価は、公示価格の8割を目処に計算することになっています。ところが、公示価格は、正常な価格とはされていますが、実際に取引される金額と同じとは限りません。土地の値段が上昇している時には、公示価格よりも実際に取引される価格の方が高くなります。逆に土地の値段が下がっている時には、実際に取引される価格が公示価格よりも下がり、路線価と同じくらいになったり、路線価の方が高いということもありました。

 このように4種類の価格がありますが、実勢価格は実際に売るか、鑑定しなければ分かりませんし、公示価格は特定の地点の評価額ですから、分割対象の土地の公示価格は分かりません。そこで、分かりやすい固定資産評価額や路線価の評価を使って、これを評価額にすることがよくあります。ただし、建物の場合は、鑑定をやらない限り、固定資産評価額を使うことになります。
 とは言え、評価額の問題は、遺産分割の結果、自分が取れる財産の価値の問題と一体の話です。土地について言えば、固定資産評価額は公示価格の7割、相続税路線価は公示価格の8割を目処にして決められているので、土地建物を取りたいAとしては安い方の固定資産評価額がいいと言います。これに対しBは相続税路線価や、不動産会社が査定した取引価格の評価書などを提出してこれらが正しいと主張します。お互いにその方が有利だからです。ただし、それでは話がまとまりません。(*1)

 どうしても二人が譲らなければ遺産分割はできません。東京家庭裁判所の調停では、評価の合意ができなければ、鑑定するしかありません(*2)。この場合、裁判所が選んだ不動産鑑定士が鑑定をします。ただし、鑑定料は当事者の負担です。しかも、それなりに高額です。また、鑑定の結果、どちらに転ぶのか分かりません。(*3) そこで、費用とリスクを避けて、最終的なお互いの取り分を念頭に置いて不動産の評価額について合意するのが多くの例です。

(*1) 概ね、公示価格と実勢価格は同じだとされています(実際は違うようですが)。そして、固定資産評価額や相続税路線価から、公表されている地点以外の物件の公示価格を算定する方法があります。固定資産評価額は、公示価格をもとに算定した評価額の0.7、路線価は公示価格をもとに算定した評価額の0.8とされています。このため、固定資産評価額を0.7で割った金額、相続税路線価で算定した金額を0.8で割った金額(0.8で割った金額というのは、1.25をかけた金額と同じです)が、公示価格になります(正確には「なる建前です」と言った方が正しいのですが)。

(*2)遺留分減殺請求などの地方裁判所の相続事件では、裁判所が判断します。裁判所が選んだ鑑定人の評価と違う判断を裁判所がすることもあります。これに対して、東京家庭裁判所での遺産分割は、建前はともかく、裁判所が選んだ鑑定人が出した評価を裁判所が変更することはないし、当事者も文句を言わないことを前提に行われています。

(*3) 居宅と収益物件が1つになったビルの事案ですが、複数の不動産業者の査定があり、知り合いの不動産鑑定士にも鑑定の予想額を聞いた上で、裁判所が選任した鑑定士の評価を予想していましたが、予想外に有利な鑑定が出たことがあります。建前上はどの鑑定士が鑑定しても同じ結論がでるはずですが、必ずしもそうではないように思います。

▲TOPへ
●自分の経営する会社に土地やお金を貸している場合の評価額

 個人企業に近い場合ですが、自分の土地を会社の施設(建物など)のために貸している場合があります。通常、普通よりも低い地代しか取りません。
また、自分の会社にお金を貸す場合、自分のお金と会社のお金をそれほど厳密に区別しないため、会社の資金繰りが苦しいときに個人のお金を回すという程度の考えで貸すのが通常です。利息を取ることは考えませんし、利益がでたら返してもらえばいいというつもりで貸しています。そのため、会社の経営状況によっては回収できないままになっていることがあります。

 さて、そんな会社経営者のご主人が亡くなりました。生前、奥さんに会社の経営権を移していたので(奥さんが株式を買い取っていました)、会社の株式の相続は問題になりませんでした。ご主人は遺言書を作っていました。自分が亡くなった後は奥さんに会社の経営を続けてほしかったので、会社に貸している土地と会社に対する債権、そして、自宅の土地建物を奥さんに相続させることにしました。
 また、相続人は、奥さん、ご主人と奥さんとの間の子どもの他、ご主人が再婚だったため、前の奥さんとの間の子どもがいました。ご主人は、他にも不動産を持っていて、子どもたちにそれぞれ土地をただで貸していて、子どもたちはそれぞれ家を建てて済んでいました。このため、それぞれの子どもたちにその土地を相続させることにしました。

 そして、ご主人が亡くなりました。その後、先妻の子が奥さんに対して、遺留分減殺の裁判を起こしました。
 奥さんが相続した財産全体の金額が大きかったからですが、その中でも金額が大きかったのは、会社に貸しているお金(貸付金)と会社に貸している土地の底地です。
 会社への貸付金は、会社が債務超過で返してもらえないという状態でない限りは、額面どおりで評価されます。ところが会社は債務超過ではありません。それでも、返してしまったら会社の資金繰りができなくなったり、会社資産を処分しなければならなくなって会社の運営ができなくなります。だから返してもらえません。奥さんにとっては価値がないのと同じです。それでも、額面評価です。
 また、普通の借地権が付いている底地の場合なら、更地価格から借地権割合で計算した借地権価格を引いたものが底地の評価額になります。借地権割合が7割なら3割が底地の価格です。ところが、自分の経営する会社に貸している場合は、賃料(地代)が安くても、底地価格が、更地価格の7割、8割に評価されます(借地権価格ではなく、底地価格が7割、8割に評価されます)。いつでも返してもらえるから、というのが理由のようですが、なんか納得できません。このような場合、税務署に「会社はいつでも土地を返します」という一筆を入れているのが普通です(「土地の無償返還の届出」といいます)。税務署はこれを根拠に底地を高く評価するのですが、遺産分割や遺留分減殺でも、同じように評価されるというのが裁判所の考えです。

 さて、遺留分減殺請求の裁判ですが、不動産の評価方法について、固定資産評価額を使うか、路線価の評価額を使うかでもめることがありますが、この件でも問題になりました。

 とは言え、当事者双方ともに不動産鑑定は論外でした。なんと言っても、相続財産全体でかなりの不動産があるため、鑑定料がいくらかかるのか分からないからです(問題になっているのは、会社に貸してある敷地だけですが、遺留分の計算をするためには、その他の土地も全部評価する必要あります)。目の玉が飛び出るくらいの金額が予想され、そんなに払うくらいなら、その分をお互いで分けた方がいいということで意見が一致しました。

 結果的には、双方が不動産の評価額を合意して、それなりのお金を払って解決しました。
 ただし、会社に対する貸金を額面額で計算することや、会社が借地権を持っている底地の評価額が一般の底地よりも高く計算することは前提でした。互いに妥協して解決することを優先させたので結果については文句はありません。
 しかし、貸金や底地の評価については、何か釈然としませんがこれが税務署や裁判所の考え方です。遺言書を作る時に、一応頭に入れておいた方がいいと思います。

▲TOPへ
相続財産の範囲や調査
●死亡退職金、弔慰金は相続財産ではありません

 会社在職中に亡くなった場合、会社から死亡退職金や弔慰金が支払われる場合があります。
 これらは会社の規程に従って支払われます。そして、規程で、誰に支払うのか決めてあります。
 通常は、配偶者、子、両親、兄弟姉妹などというように順番(要するに、配偶者がいなければ子、子がいなければ両親などというように支払う順番のこと)が決まっています。兄弟姉妹の場合も、長男に支払うなどと決めていることが多いようです。

 配偶者も子も両親もいない場合というのは、法定相続人が兄弟姉妹だけのケースです。遺言書がない場合には、兄弟姉妹は平等に遺産を相続することになります(異父異母の場合は違いますが)。
 ところが、死亡退職金、弔慰金の規程が「兄弟姉妹のうち長兄に交付する」となっていれば、長兄だけが死亡退職金や弔慰金を受け取ることができます。受け取った長兄は、これを他の兄弟姉妹に分配する必要はありません。

 故人と長兄が、他の兄弟姉妹と比べて特に親しかったという場合ならともかく、長兄と特に仲が悪い場合でも、会社は長兄に支払うことになります。
悪いことに、遺言書でもこれを変更できません。相続財産ではないので、遺言の対象にならないのです。

 遺産分割の時に、長兄が死亡退職金や弔慰金をもらったことを考慮できるか、という問題があります。つまり、相続財産ではないとしても、長兄がそれ相当のお金をもらったということで、相続財産の分割の時に少し遠慮してもらうことができるか、という問題です。
 話し合いで解決する場合には、いかようにもなりますが、裁判所が決める場合には、原則として考慮されません。例外的に相続人間に著しい不公平があるような特別な場合には考慮されます。例えば、他に何の相続財産もないような場合が考えられます。

▲TOPへ
●亡くなった人の預金が引き出されていた

 亡くなった人の預金が共同相続人の1人に引き出されたという主張を他の共同相続人がすることがあります。

・亡くなった人の預貯金の調査
 相続人であれば、他の共同相続人の同意がなくても、被相続人(亡くなられた方)が預金していた銀行に対して、取引履歴(取引明細)を出すように請求ができます(請求の時から10年前までの取引履歴を出してくれます。郵便局は8年です。ただし、通常はそんなに古いものは必要ありません)。取引履歴を見れば、亡くなられた前後に預金が引き出されたかどうか分かります。

 ただし、これは被相続人が預金していた銀行の支店が分かっている場合です(郵便局の場合は支店が分からなくても可能です)。
 被相続人がどこの銀行のどこの支店に預金していたのか、全く分からないという場合は、お手上げです(弁護士が弁護士会を通して、銀行本店に調査依頼すれば、取引していた支店を教えてくれる場合もあります。1つの支店との取引があれば、他の支店の取引も教えてくれる場合もあります。ただし、どちらの場合も、どこの銀行か分からなければお手上げです)。
 例えば、親Aが亡くなり、Aと同居していた共同相続人BがAの面倒を見て預金なども管理していたので、共同相続人Cは、BがAの預金を勝手に使ったのではないかと疑うのですが、Bが知らないと言うとお手上げです。
 とは言え、全く預金口座がない、というのもおかしいので、Bも1つくらいは知っている口座があると言うかも知れません。そこにはほとんどお金が入っていないので、他にも口座があるのではないかと思われる場合には、Bが知っている口座の取引履歴を確認すると、他の口座が判明することがあります(履歴に送金先や入金先が記載されている場合です。なお、銀行の合併や支店の統合の関係で同じ支店に複数の口座がある場合がありますが、その場合はその支店で教えてくれます)。

 そこで、被相続人の口座が分かった場合です。その口座の取引履歴を調べてみたら、多額のお金が引き出されていた、という場合、2つのケースがあります。1つは亡くなった後で引き出された場合です。そして、もう1つは亡くなる前に引き出された場合です。

・亡くなった後で預金が引き出されていた場合
 まず、亡くなった後でお金が引き出されていたケースからお話します。
 銀行預金などの債権については、遺言がない限り、相続が発生すると法定相続分で当然に分割されるというのが最高裁の判例でしたが、平成28年12月19日の最高裁の決定で預金に関してはこの判例が変更されました(その他の債権については従来どおりです)。その結果、遺言がなければ、預金も遺産分割の対象になり、遺産分割協議や調停、審判がないと、各相続人に分割されないことになりました(以前も、共同相続人全員が合意すれば、預金も遺産分割の対象にできます。そのため、預金も含めて遺産分割協議をすることは普通に行われていました)。

 そこで、BとCの2名が同じ相続分(1/2)の共同相続の場合に、Bが亡くなったA名義の500万円の預金を全額引き出したとします。判例変更前の解説だと、相続開始(Aが亡くなった時)と同時に500万円の預金が、250万円ずつに分割されたのに、BがCの分の預金も勝手に下ろしたことになるとされていました。
 それでは判例変更の結果どうなるのかと言うと、相続開始後、遺産分割前は、500万円の預金は、BとCの共有の形で銀行と契約していることになります。その結果、本来は共同でないと払い戻しできないことになります(判例変更前から相続人全員の同意がないと払い戻しに応じない金融機関もありました)。
 それなのにBが勝手に全額を引き出すとどうなるかと言うと(判例変更後の裁判例がまだないのですが)、判例変更前は、相続開始と同時に分割されてC自身の預金債権になったものが侵害されたという構成だったのですが、判例変更後は、Cは遺産分割前の共有持分権を侵害されたことになります。どこに違いがあるかと言うと、この問題に関しては、実際上は、ほとんど違いがないと言っていいと思います。判例変更後も、権利を侵害されたCは、権利を侵害したBに対して、損害賠償請求ができることになります。 (*)

 もっとも、Bが引き出したお金の一部を葬儀費用に使ったなどと言う場合もあり得ます。葬儀費用は、遺産分割の問題ではないのですが(被相続人が亡くなった後の話ですから)、この問題も含めて合意があれば、遺産分割協議をすることができます。
 しかし、話し合いで解決できなければ、Cは自分の権利が侵害されたということで、地方裁判所に損害賠償の請求をすることになります。

(*)相続人でない第三者が預金を勝手に引き出した場合、共同相続人のBとCはそれぞれ自分の持分が侵害されたということで、その第三者に損害賠償ができます。それと同じです。

・金融機関を相手に裁判をする場合もあります
 亡くなった後で預金が引き出されたというケースは、被相続人が亡くなったことを金融機関に知らせず、被相続人から委任を受けたことにして、預金の払い戻しをするというのが通常のケースです。

 最高裁の判例変更前は、金融機関に落ち度があれば(怪しいと思うのが当然という状況があるのに、支払いに応じた場合)、金融機関に対して、自分が相続した預金(先ほどの例で言うと250万円)の払い戻しを請求することができました。判例変更後はこれができなくなりました。しかし、銀行に落ち度があれば、遺産分割前の共有持分を侵害されたということで、銀行に対して、損害賠償を請求することができます。
 ただし、どちらにしても金融機関の落ち度を証明するのは、なかなか難しいです。勝手に払い戻しをした人に、お金がない場合(多額の借金があって払い戻したお金を使ってしまったような場合。つまり、勝訴してもお金が取り戻せない場合)でなければ、払い戻しをした人を相手に損害賠償を請求した方が簡単です。

・亡くなる前に預金が引き出されていた場合
 被相続人が亡くなる前に預金が引き出された場合には、もっとやっかいな話になります。被相続人が関与している可能性もあるからです。上記のA(被相続人=預金名義人)とB、Cの例で言うと、CとしてはBが勝手に引き出したと疑っても、Bが「知らない、Aが自分で引き出してどこかで使ったのだろう」と言われるとお手上げです。(*1)
 これに対し、Bが「Aに無断で、お金を引き出して使ってしまった」ことを認めている場合には、Bの行為は、亡くなったAに対する不法行為になります。CはAが生前持っていたBに対する損害賠償請求権を相続することになります(この場合も、損害賠償請求権は、BとCの2人で相続することになるので、CがBに請求できるのは、無断で引き出された預金額の半分になります)。

  ただし、Bが無断で引き出したことを認めることはほとんど考えられません。しかし、Aからもらったと言う可能性はあり得ます。
 その場合には、特別受益の問題になります。この場合、BがAからもらった分を相続財産に加えます。前記のように、Aに500万円の預金があり、Bがこれをもらったという場合には、この金額を相続財産の全額に加えます。他に財産が2000万円あれば、総額は2500万円になり、その1/2は1250万円になります。Bはすでに500万円をもらっているので1250万円から500万円を引くことになります。このため、Bは750万円、Cは1250万円分の財産を相続することになります。残っている2000万円の財産をこの割合で分けることになります。
 このような特別受益の問題は、遺産分割調停の手続で解決する問題になります。(*2)
 ただし、これはあくまでも、BがAの生前にAの預金の中からお金をもらったことが判明した場合です。家庭裁判所や調停委員が調べてくれるわけではありません。預金の取引履歴などを確認するなどして調査する必要があります。

(*1)最近は本人確認をしたかどうか記録されているので、金融機関に確認すれば、A本人が引き出したのか、BがAの代理人として引き出したのか分かる場合があります。それでも、BがAから頼まれて払い戻しをして、Aにお金を渡したと言われるとお手上げです。ただし、Aの口座からBの口座に送金されている場合には、Bはこのような言い訳ができません。

(*2)BがAからお金をもらったからと言って、それが即、特別受益になるわけではありません。遺産総額に対して、BがAからもらっていた金額が小さい場合、特別受益ではないとされる可能性があります。

▲TOPへ

【遺産分割協議】
※遺産分割協議の一般的な解説は「相続の基礎知識」「遺産分割協議」をご覧ください。

●遺産分割協議がまとまったのに分割協議書に判子がもらえない

  共同相続人の間で遺産の分割協議がまとまり、その内容で遺産分割協議書を作ろうと思って判子を押してくれと言ったら、いや、判子を押せないと言われた・・・。こんな話も珍しくはないと思います。

 遺産分割協議書は、不動産の登記申請などに使います。そのため、専門家に相談するなどして登記申請のときに問題が起こらないように作る必要があります(特に、お父さんが亡くなり、その後、お母さんが亡くなるなど相続関係が複雑な場合には注意しなければなりません)。また、登記申請に使う分割協議書には、印鑑登録してある実印を押す必要があります。登記申請には印鑑登録証明書も必要です。通常は、不動産をもらう人が、分割協議書に実印を押してもらう時に印鑑証明書を受け取ります。

  このため、一旦、話がまとまった後、話し合いの内容をまとめた正式な遺産分割協議書を作り、それに実印を押してもらうまでに時間が空いてしまうことがあります。そして、いざ判子をもらおうと思ったら、「いや、そんなことを言ったつもりはない」「いや、言ったはずだ」ということになると、証拠がないのでどうしようもありません。

 実は録音してあった・・・・という場合も、問題があります。一般の契約の場合、法律上は、口約束でも契約は成立することになっています。しかし、契約書を作ることにしている場合は、契約書に判子を押した時に契約が成立したとされるのが普通です。契約書に判子を押した時が正式な意思の表示だと考えられるからです(契約書を作る前は、原則として、まだ、正式な意思表示ではないと考えられます)。遺産分割協議も、分割協議書に判子を押した時が遺産分割協議の成立だとされるのが一般です。

 では、どうしたらいいかと言えば、話がまとまった時点で登記申請に使えなくても、とりあえず遺産分割協議書を作ってしまうことです。実印をもっていなくてもかまいません。指印でもかまいません。とりあえず遺産分割協議書を作った後で、登記申請が必要なら、改めて登記申請に使うための遺産分割協議書を作ることです(内容が同じなら遺産分割協議書が何通あっても問題はありません)。話し合いがまとまったはずなのに、その場で判子を押してくれない、という場合は、実は話し合いはまだまとまっていないということになります。

 話し合いがまとまり、その場で遺産分割協議書を作ったのに、後になって登記申請のための遺産分割協議書に実印を押してくれない、という場合は、裁判を起こすことになります。実印が押してなかったり、若干の不備のある遺産分割協議書でも、裁判所で遺産分割協議があったと認められれば、その判決で登記申請ができます。

 問題になるのは、「遺産分割協議書」というタイトルがなくて、「本日、相続人間で話し合った結果、×××の内容で遺産を分けることとした。この内容で遺産分割協議書を作成する」と書いてある書面に、共同相続人全員が署名したような場合です。
 この書面で、正式な遺産分割協議が成立したことになるのか、それとも、遺産分割協議書を作成するまで正式な分割協議が成立したことにならないのか(その場合、後で1人でも「気が変わった」と言えば、もう一度話し合いをする必要があります)問題になります。

 遺産の中に不動産がある場合には、「この内容で遺産分割協議書を作成する」というのは、登記申請のための書類を作成するという意味だと思いますが、書面の内容と書面を作る前後の状況が重要になります。
 たとえば、3人兄弟で、二男が父親の所有する家に両親と同居して面倒をみていたという場合に、父親が亡くなり、その家を二男が相続する(母親と同居することが前提です)という内容で話がまとまり、上記のような書面を作成したとします。そして、その後、二男が相続税を全額納め、その後も固定資産税の支払いを続けてきた場合には、上記のような書面を作成した時に遺産分割協議が成立したと考えられます。とは言え、それではなぜ、すぐに遺産分割協議書を作成しなかったのか、という問題が残ります。このようなケースで裁判を起こしたことがありましたが、最終的に和解で終了しました。有利な内容とは言え、ある程度の和解金を支払いました。

▲TOPへ
●相続分の譲渡

 相続が発生して、実は、多数の相続人がいることが判明する場合があります。
 中には一度も顔を合わせたことのない人もいます。積極的に争うというほどではないにしても、身内で親しい人達とそうでない人達の2派に分かれることがあります。

 話を単純にするために、A、B、Cの3人が等しい割合で相続分を持っているとします(相続分は、それぞれ3分の1です)。
この場合、Aと親しいBが「自分はいらないから相続を放棄する」と言うことがあります。

 相続放棄をすると、Bが持っていた相続分(3分の1)は、AとCに等しく分けられることになります。つまり、AもCも、Bの持っていた3分の1の相続分の半分(6分の1)を持つことになります。その結果、AとCの相続分は2分の1ずつになります。

 ところが、Bの本音は「自分が相続する分は、Aにあげる」ということだったとすると、AもCも相続分が等しく増えるという結果は、Bとしても不本意なことになります。

 このような場合は、相続の放棄ではなく、「相続分の譲渡」という手続を取ることができます(相続の放棄をした後は手遅れです)。
 相続分の譲渡は、書面だけでできます。相続の放棄のように、家庭裁判所に申告するなどの手続は不要です(*1)。ただで自分の権利をあげるのですから、贈与のようなものですが、共同相続人の間で相続分を譲渡する場合には、贈与税はかかりません(相続税の総額に変わりないからです。ただし、相続開始から長い年月が経ってから遺産分割する場合、税務署が、遺産分割ではなくて遺産分割済みの共有物の分割と認定して、贈与税を課す可能性があります。弁護士、税理士の意見を聞いてから手続をすべきです)。

 この手続を取ると、Bの相続分は、全てAに移ります。その結果、Aの相続分は、3分の2になります。Cは前と同様、3分の1の相続分のままです。
 そして、これを前提としてAとCとの間で遺産分割協議をすることができます。

 なお、前記の通り、相続分の譲渡をしても贈与税はかかりますせんが、Aの相続分が増えるため、その分、Aについては相続税の納付額が増えます(当然だと思いますが)。

 もう1つ注意しなければならないのは、債務の負担の問題です。相続分の譲渡をしても、相続放棄と違って、被相続人(亡くなった人)が負担していた債務の相続を免れることはできません。AとBとの間では、相続分の譲渡を受けたAがこの債務を支払わなければならないのですが、Aが支払わなければBは法定相続分の債務が残るため、その分の支払いをしなければなりません(支払った後で、Aに対して支払った分を請求することはできます)。この点について不安があれば、相続放棄をするしかありません。

(*) 家庭裁判所で遺産分割の調停をやることを前提に相続分の譲渡をする場合、あるいは調停中に相続分の譲渡をする場合には、その届出が必要です。届けがないと、裁判所では、相続分の譲渡があったことが分らないからです。相続人だけの協議で遺産分割を成立させる場合には、裁判所に届ける必要はありません。相続の放棄のように、裁判所に申告しないと効力が発生しない、ということではないのです。

▲TOPへ
●相続人に未成年者がいる場合

 相続人の中に未成年者がいる場合は、未成年者の親権者(通常は父母)が法定代理人ですから、父と母が子の代理人となって遺産分割協議をすることになります。
 ただし、父母が代理人になれない場合があります。その場合は特別代理人の選任が必要になります。

 未成年の子が相続人になる場合としては、父母のうちの一方が亡くなるというケースがあります。気の毒な話ですが、あり得ない話ではありません。例えば、父親が亡くなった場合、母親と子が共同相続人になります。
 ここで問題が起こります。この遺産分割協議は、母と未成年の子の間で行う必要があるからです。
 母と未成年の子が協議するんだから、問題があるはずがない、と思うかも知れませんが、母が、共同相続人の立場と子の代理人としての立場で遺産分割協議をする、ということは、母が1人で全部決めることになります。そうすると、母は自分の利益を優先して子の利益を犠牲にしてしまうかも知れません。

 母親が実の子の不利になることはしないだろうと言うのが、普通の考えかも知れませんが、法律上はそうはいきません。
 母親が子の代理人として遺産分割協議をしても無効です。この場合、母親は、子どものために家庭裁判所に特別代理人の選任を求める必要があります。

 特別代理人と言うと大げさに聞こえますが、例えば、亡くなった父親の兄弟姉妹(子からみればおじさん、おばさん)でもいいわけです。要するに、おじさんが特別代理人になることを許可してください、という申立を家庭裁判所にすることになります。
 なお、この場合、特別代理人の選任申立の際に、母と子の遺産分割協議書の案を家庭裁判所に提出します。家庭裁判所は、遺産分割協議書案の内容が、子の法定相続分(子が1人なら1/2)が守られる内容になっていれば、特別代理人の選任を認めます。実質的には、家庭裁判所が遺産分割協議の内容を審査するようなものです。

 そこまでしなくてもいいだろうと思うかも知れませんが、例えば、亡くなった父親が複数の不動産を持っていて、その不動産を母親と子で分ける場合には、特別代理人を選任した上で分割協議書を作らないとその登記ができません。(*)

 なお、特別相続人が選任された場合、その権限は遺産分割が成立すれば終了します。分割後の子の財産は、親権者である母親が管理することになります。

 特別代理人の選任が必要な場合は、他にもあります。例えば、父親がすでに亡くなっていて、子どもが2人いる場合に父親の父(子からみれば祖父)が亡くなったとします。この場合、子ども2人は、亡くなった父親の代襲相続人として祖父の財産を相続します。
 この場合、子どもの母は相続人ではありません。
 ところが、この場合でも母は、2人の子の法定代理人として遺産分割協議をすることはできません。2人の子の間に利害の対立があることになるからです。
 つまり、このような場合も、特別代理人の選任が必要になります。ただし、2人の子どものうち1人については、母は法定代理人になることができます。もう1人の子について特別代理人の選任の申立をすることになります。
この場合も親族の中から特別代理人になってもらうことができます。ただし、父方のおじ、おばは、祖父の子で共同相続人なので特別代理人にはなれません。
 この場合も子を除く共同相続人間で話し合いができて遺産分割協議書の案ができれば、これを添付して家庭裁判所に特別代理人の選任を求めることになります。
 しかし、子どもたち以外にも相続人がいて、話し合いで遺産分割ができない場合は遺産分割協議書の案はできません。家庭裁判所の調停などの手続に特別代理人が子の代理人として関与することを前提として、特別代理人の選任の申立をすることになります。

(*)遺産分割協議はいつまでにしなければいけない、というものではありません。このため、財産を処分してお金を作らなければならないとか、相続税の関係で遺産分割の必要がある、ということでなければ、子が成人するのを待って遺産分割協議をしてもかまいません。ただし、後の例のように他にも共同相続人がいる場合には、子が成人するまで待ってもらうわけにはいかないと思います。
▲TOPへ
相続と会社
●非上場会社の株式の相続と会社への対抗
 
上場していない会社の株式を持っていた人が亡くなった場合のお話です。この場合、その株式は相続されます。税務や遺産分割で、この株式の評価がどうなるのか、やっかいな問題になることがありますが、それはここでは別の問題。ここでは、非上場の会社の株主が亡くなった時に、会社との関係でトラブルがあった場合にどうするか、というお話をします。

・取締役会の承認は不要です
 会社の株式も当然、相続されます。非上場会社の株式の場合、通常の株式譲渡については、取締役会の承認が必要になります(取締役会がある会社の場合です)(*)。しかし、株主が亡くなり、その株式が相続で引き継がれる場合には、会社はその遺産分割に口をはさむことはできません。相続人間で分割協議がまとまれば、それに従って、それぞれ自分が株主になったことを会社に主張することができます。取締役会の承認は不要です。
(*)定款で株式の譲渡に取締役会の承認が必要と書いてある場合です。通常、非上場の会社で取締役会を設置する会社では定款にこのように書いてあります。ただし、定款に、そのように書いていない(取締役会の承認なしに株式譲渡ができることになります)会社もありますが、その定款を見て驚いたほど、珍しいです。

・遺産分割協議が必要です
 ただし、相続人が株主になったことを会社に主張できるのは、原則として、遺産分割協議(遺言があれば遺言に従いますが)で誰がどれだけの株式を相続するのか決まった後です。遺産分割協議がないのに、法定相続分の割合で株主になったと会社に主張することはできません。

・遺産分割協議前でも、議決権などの行使ができます
 では、遺産分割協議前は、会社に何も主張できないのかと言うと、そうではありません。分割前は、共同相続人全員で株式を共有していることになるので、共同相続人の中から、株主の権利を行使する者を1名決めて、会社に通知すれば、その1名が、亡くなった人が持っていた株式全体について、株主としての権利を行使することができます(要するに、共同相続人の中から代表者を決めて会社に通知するということです)。

 どうやって、その1名を決めるのかと言うと、相続した割合の過半数です。相続人の人数の過半数ではありません。例えば、株主Aが亡くなり、妻Bと子ども3人(C、D、E)が相続人の場合、Bが1/2、C、D、Eがそれぞれ1/6の権利を持っています。そのため、Bと、子どもの1人が賛成すれば、株主権を行使する1名を決めることができます。
 そして、そのことを会社に通知すれば、その1名が相続人全員分の株式について株主としての権利を行使することができます。会社がこれを認めるかどうかは問題になりません(通知があれば認めざるを得ないのです)。

 なんでこんなことが必要かと言うと、世の中には、遺産分割がなかなかできないけれども、会社との関係で権利行為をしなければならない場合があるからです。遺産分割でもたもたしている間に、他の株主が会社の経営方針を決めてしまったら困るという場合などに利用します。

・こんな実例(裁判例)があります
 実例としては最高裁で判決のあったケースを簡略にしたものを紹介します。このケースでは、100%の株主だったAが亡くなり、妻Bと子C(AとBとの間の子です)が相続人になりました。ところが、この他にAの内妻の子(Aとの間の子ですが)Dも相続人になりました。法定相続分だと、Bが1/2、Cが1/4、Dが1/4になります(実際の事件は平成25年に最高裁が、Dのような子もCと相続分は平等だという判決を出す前のものですが、現時点のものに直しました)。

 これだけだとただの遺産分割の問題ですが、実は、内妻の子Dは、Aから生前に株式全部を贈与されていたと言って、Aの死後、Dだけで株主総会を開催したとして、Dが会社の代表取締役に選任されたという登記をしてしまいました。

 BとCは、生前贈与なんかないと主張して、株主総会決議不存在確認の訴えを提起しました(この場合は、被告は会社ですが、その代表取締役は登記上の代表取締役のDになります。実質的には、B・CとDとの裁判になります)。
 ところが、株主総会決議不存在確認の訴えを提起するためには、BとCが会社に株主としての権利を行使できることが前提条件になります。

 BとCにしてみれば、会社はDが支配しているわけですから、自分たちの権利を認めるわけがない、しかも、Dは株式の相続自体を否定している(生前に全部譲渡を受けたと主張している)のだから、遺産分割協議もできません。
 こんな状態でしたが、最高裁判所は、BとCの二人でどちらかを株主権を行使する者と決めて(上記のとおり、BとCの2人の株数で過半数になります)、そのことを会社に通知すればいいんだ(会社がそれを認める必要はない)、そうすれば、株主総会不存在確認の訴えが提起できるんだという判決をしました(最高裁平成9年1月18日判決)。

 このようなお話をすると不思議に思う人もいると思います。生前贈与があったとすると、BもCも株式の共有者にならないから、株主権を行使する者の指定なんかできないんじゃないか・・・・と。
 まあ、確かにそのとおりなんですが、とにかく裁判をやらないと、生前贈与があったかどうかの判断ができません。最高裁が言っているのは、入口(いりぐち)の議論です。BとCの言うとおりだったとしても、株主権を行使する者を決めて会社に通知しなければ会社に対して株主としての権利行使ができないんだから、もうそれだけでアウトじゃないか(訴えの提起が認められないじゃないか)、ということなんです。
 とりあえず、この入口の問題をクリアして、次に進みましょう、ということなんです。

 ついでに言えば、株主総会決議不存在の裁判の会社の代表者がDだというのも、生前贈与がなければDは会社の代表取締役になれないのだから変じゃないか、ということになります。これも入口の問題で、このように決めておかないと裁判が始まらないからそういうことにしておきましょう、ということです。
▲TOPへ
相続と第三者の権利
●債務者が亡くなって相続が発生した場合
 
借金を相続した、という話です。 これについては、「相続の基礎知識」の「債務の相続」の「●法定相続分で債務を相続」と「●分割協議や遺言で変更しても債権者しだい」をご覧ください。
▲TOPへ

●相続人の債権者による不動産や預金の差し押さえ
 債権があっても債務者に財産がなければ、債権者は差し押さえなどの手続ができません。ところが、債務者が父親の財産を相続した場合、債権者は相続財産を差し押さえることができます。この場合、他の相続人との遺産分割はどうなるのでしょうか。また、債務者が相続の放棄をしたらどうなるのでしょうか。
 これについて、お話します。

・相続人の債権者が相続財産を差し押さえるという意味は
 例えば、AとBの父親が亡くなり、共同相続人として父親の財産をAとBが相続したとします(母親はすでに亡くなっていることにします)。ところが、Aには借金があり、Aの債権者はAに対して、お金を支払えという判決を持っていたとします。Aに財産があれば、債権者はAの財産を差し押さえることができますが、Aには財産がありません。そんな時にたまたまAの父が亡くなりました。遺書はなく法定相続の場合は、AとBはそれぞれ1/2の法定相続分があります。

 この時、相続財産に不動産があれば、Aの債権者は、Aが相続した持分について、判決によって差し押さえをすることができます。不動産の名義が亡くなったAの父親名義のままでも、債権者はAに代わって、AとBの共有名義の登記をすることができ、Aの持分(1/2)について差し押さえをすることができます。

・差押えがあった場合と遺産分割協議
 こんな場合でも、AとBとは遺産分割協議ができます。ただし、遺産分割協議は、すでに差し押さえをしたAの債権者の地位を覆すことはできません。例えば、その不動産を全てBが相続するという内容の遺産分割協議をしたとしても、Aの債権者が差し押さえた不動産の持分1/2について競売の手続が行われます。そして、この持分を競売で買い取った競落人は持分1/2の権利者になります。
 この時、残りの持分1/2がBのものなっていた場合、競落人はBとの間で、共有物の分割をすることになります(遺産分割ではないので裁判は地方裁判所でやります)。

・差押えの前に遺産分割協議をしていたら
 差し押さえの前に、AとBとの間で不動産を全てBが相続するという内容の遺産分割協議ができていたとしても、この登記をする前に、Aの債権者がAの持分1/2を先に差し押さえた場合にも、上と同じ結論になります。

 これに対して、Aの債権者が差し押さえをする前に、AとBとが分割協議をして、不動産をBが全て相続することにして、その登記も完了した場合、Aの債権者は、その不動産を差し押さえることができなくなります(要するに登記の前か後かで決まります)。

 ただし、AとBが、Aの債権者に債権回収をさせないために相続した財産をすべてBのものにするように遺産分割協議をした場合には、Aの債権者は、その遺産分割協議を取り消すことができます(詐害行為取消権とか債権者取消権と言います)。この取消手続は裁判でやらなければなりません。

・銀行預金の差押え
 次に、相続財産が銀行預金だった場合ですが、銀行預金は、相続により自動的に法定相続分で分割されることになっています(共同相続人全員の合意で分割協議の対象にすることは可能ですが)。このため、例えば、AとBの父が500万円の預金を持っていた場合、相続開始と同時にAとBはそれぞれ250万円ずつの預金債権を取得したことになります(自動的に口座の名義が変わるわけではありません)。そして、預金が払い戻される前なら、Aの債権者は、Aが取得した250万円の預金債権を差し押さえることができます(預金名義が父親の場合でも差し押さえは可能です)。この場合、競売の手続は行われず、他に差し押さえをした債権者がいなければ(*)、債権者は自分で銀行から取立をすることができます(銀行によって取り扱いが違い、銀行から払い戻しを受けるために裁判が必要な場合もあります)。
 ただし、Aの債権者が、Aの父親の銀行預金(銀行とその支店)を調べることは難しい場合が多いと思います(Aの債権者はAの父親とは取引関係がないからです)。
(*)預金がAの債権者に支払われる前は、他の債権者も差押えができます。つまり、Aの債権者に優先権はありません。Aの債権者が、差し押さえと同時に転付命令の申立をした場合には、転付命令がAに送達される前に他の債権者の差押えがなければ、転付命令をした債権者が優先的に債権を回収できます。

・相続の放棄をした場合
 相続財産に対して差し押さえをする場合、1つ大きな問題があります。それは、Aが相続の放棄をした場合です。
 相続の放棄をすると、Aは最初から相続人ではなかったことになります(Bだけが相続人だったことになります)。しかも、この効果は、遺産分割協議のように登記の前後は関係ありません。Aの債権者が差し押さえをした後でも、Aは相続の放棄ができ、これによってAの債権者の差し押さえは空振りになります(最高裁昭和42年1月20日判決)。
 ただし、相続の放棄は、Aが相続を知った時から3か月(通常は、父親が亡くなったことを知った時から3か月)を経過するとできなくなります。

 なお、Aの債権者の立場からすると、Aの相続の放棄は、債権者に損害を与える行為になりますが、さきほどの遺産分割の場合と違って、相続の放棄を債権者取消権(詐害行為取消権)によって取り消すことはできません(最高裁昭和49年9月20日判決)。

・遺言書がある場合
 遺言書があった場合にどうなるかというお話をします。

 Aの父親が亡くなった後で、Aの債権者がAの父親名義の土地(相続財産)のうち、Aの持分(1/2)を差し押さえたとします。ところが、その後で父親の遺言書がでてきました。遺言の内容は、その不動産をB(Aの弟)に「全部相続させる」という内容でした。Bはこの遺言書に基づいて不動産の登記ができますが、Bの登記がされる前にAの差し押さえの登記がされたことになります。しかし、この差し押さえは無効です。
 
この場合は、相続開始と同時に(まだ遺言書が見つかっていない場合でも)、不動産はBのものになり、Bは登記がなくても第三者(Aの債権者を含みます)にその主張ができるとされています(最高裁平成14年6月10日判決)。ただし、何もしないと競売手続が進みます。Bは裁判などの手続を取る必要があります。

 なお、例えばその不動産以外に相続財産がない場合、遺言によってAの遺留分が侵害されたことになります(AとB以外に相続人がない場合、Aには1/4の遺留分があります)。そこでAは遺留分減殺請求することができ、その場合、原則として(父親に債務などがない場合)、不動産の1/4の持分がAのものになります。ところが、A自身がこの遺留分減殺請求権を行使しない場合は、Aの債権者はどうすることもできません。債権者は債務者に財産がない場合、債務者に代わって債務者の権利を行使する権利(債権者代位権といいます)がありますが、遺留分減殺請求権は債権者が代わりに行使することができません(最高裁平成13年11月22日判決)。

 ところで、以上は相続人のBに財産を譲るという遺言があった場合ですが、遺言で相続人以外の人に財産を譲ることもできます。これを「遺贈」といいますが、遺贈については、登記がなければ第三者に対抗できないとされています。つまり、先に相続財産の差し押さえの登記をしたAの債権者が優先します。

▲TOPへ
相続と裁判手続
●相続事件は家庭裁判所、地方裁判所?

・相続の事件は家庭裁判所でやる場合と地方裁判所でやる場合があります
 相続に関係する事件で裁判をやる場合、家庭裁判所でやる場合と地方裁判所でやる場合があります。
 家庭裁判所は離婚事件も扱っていて、離婚事件の場合、調停が成立しないと通常の裁判になりますが、離婚の通常裁判は家庭裁判所で行います。
 通常の裁判というのは、テレビで見るような法廷で裁判をする、ということです。
 以前は、離婚の通常裁判も地方裁判所で扱っていたのですが、現在は法律が変わって家庭裁判所で扱うようになりました。
 しかし、相続に関しては、現在も通常の裁判は地方裁判所の扱いになります。

・ざっくり言えば、遺言書がない場合は家庭裁判所です
 それでは、どんな相続事件が家庭裁判所でやることになり、どんな事件だと地方裁判所になるのかと言うと・・・・
 色々な事件があるので、一言で言うのは何ですが、ざっくり言うと、遺言書のある事件は地方裁判所。遺言書のない事件は家庭裁判所、ということになります。

 このように言うとまるで、遺言書がある方が大変なことになるように思われるかも知れません。
 しかし、逆に言うと、遺言書がある事件はそれだけ白黒決着が着きやすいので、地方裁判所でやる、と思った方がいいでしょう。

 例えば、遺言書がなければ、共同相続人の間で遺産分割協議をしなければ遺産の分割はできません。当事者だけの話し合いでまとまるならそれでいいのですが、まとまらなければ、家庭裁判所の調停や審判で決着をつけなければなりません。
 これらの手続は、法廷で行うのではありません。
 調停の場合は、会議室のような部屋で、調停委員がそれぞれの当事者から話を聞きながら、合意が成立するように誘導します。どうしても合意が成立しなければ、裁判所が審判という形で決着をつけます。これも法廷での手続ではありません。
 しかし、調停も審判も、裁判所が財産の内容を調べてくれるわけではありません。また、裁判所の費用で財産の評価をしてくれるわけではありません。法廷での手続と違うとは言え、積極的に自分の利益を主張してそれを裏付ける証拠を出されなければ不本意な結果になります。調停は合意しなければ成立しませんが、主張や証拠が出せなければ、「仕方ないですね」という形で説得され、合意せざるを得なくなるということもあり得ます。
 遺言書がある場合に裁判になるのは、遺言当時の遺言者の能力が問題になって遺言の効力が問題になる場合、遺言書の偽造が問題になる場合、複数の遺言書があってどれが有効なのか問題なる場合、遺言書の解釈に問題がある場合、遺留分の侵害が問題になる場合など様々です。これらはいずれも地方裁判所に通常の事件として提起することになります。

・遺留分減殺請求事件は調停もできますが最初から裁判もできます
 遺言書がある事件は地方裁判所と言っても、それは最終決着をつける場所が家庭裁判所ではない、という意味です。これらの事件でも、家庭裁判所に調停を起こすことができる場合があります。
 家庭裁判所は建前上、全ての家庭関係の問題について、調停を受け付けます。遺言書がある場合で問題になる典型的な事件は、遺留分の侵害です。2人の子どもが相続人の場合に、そのうちの1人に全ての財産をやる、という遺言を遺した場合、財産を取得できなかった子が財産をもらった子を相手に財産の一部をよこせというのが、遺留分減殺請求の事件です。この事件は、建前上はまず家庭裁判所の調停をやることになっています。しかし、離婚事件などと違って、調停をしないで最初から地方裁判所に通常の裁判を起こすことができます(離婚の場合は、いきなり通常の裁判を起こせません。起こしても調停に回されます)。
 このように遺留分減殺の事件も家庭裁判所の調停申立ができますが、調停が成立しない場合には、家庭裁判所の手続はそれで終わりです。遺産分割事件の場合は、調停が成立しなければ家庭裁判所の審判手続に移行します。しかし、遺留分減殺請求事件の場合は審判にはなりません。調停が成立しない場合には、改めて地方裁判所に訴えを提起しなければなりません。ならば、最初から地方裁判所で裁判をやった方がてっとり早い、というのも1つの考えです。

 なお、遺産分割のように家庭裁判所で最終決着をつけなければならない事件(この場合も、家庭裁判所の審判に対して、高等裁判所に即時抗告ができる場合がありますが)は、家庭裁判所に調停あるいは審判の申立をしなければなりません。地方裁判所に裁判を起こすことはできません。

・遺言書がなくても地方裁判所の事件、あっても家庭裁判所の場合があります
 遺言がある事件は地方裁判所、ない事件は家庭裁判所というのは、あくまでも、ざっくりした話です。例外はあります。
 例えば、自筆遺言書の検認手続は、家庭裁判所でやります。
 遺言書がないので遺産分割協議をしようと思ったら、第三者が遺産だと思っていた財産は自分のものだと言ってくれば、その人との裁判は地方裁判所でやることになります。共同相続人の中に、その財産は自分の財産で相続財産じゃない、と言っている場合も同じです。
 また、遺言書があっても、相続財産の一部について誰に帰属するのか書いていない場合があります(例えば、「自宅の土地建物をだれそれに相続させる」と書いてあるだけで、他にも財産があるのに、それををどうするのか書いていない場合があります)。この場合、遺言書に書いてない財産について遺産分割協議が必要になる場合があり、それについては家庭裁判所で調停などを行うことになります(自筆遺言の場合には、ありがちです。公正証書遺言の場合、最後に「その他の財産は全て○○に相続させる」という条項があるのが普通なので、このような問題は普通は起きません)。

  その他、ざっくりした話の例外はいくらでもあります。

 いずれにしても、どの裁判所に対して、どのような手続を求めるのかは、弁護士に依頼されれば、弁護士が検討し判断することになります。

▲TOPへ
●弁護士の利益相反禁止と相続事件

・利益相反行為とは
 弁護士は、利益相反行為が禁止されています。対立する当事者双方から依頼や相談を受けてはいけないという意味でする
 例えば、AさんからBさんとのトラブルの相談を弁護士が受けてアドバイスなどをした後で、同じ弁護士が、Bさんから相談を受けてAさんを訴える裁判でBさんの代理人になる、というのが利益相反行為です。このようなことは禁止されています。
 ただし、この弁護士がBさんの裁判でやった訴訟行為の効果(訴状その他の書面の提出などの効果)がどうなるのかは別問題です。Aさんから相談を受けた程度がどうだったのか、という程度の問題もありますが、裁判の途中でAさんが異議(自分の相談を受けた弁護士が相手方のBさんの弁護士になるのはおかしいじゃないかと裁判所に申し出ること)を述べないまま裁判が終わってしまったら、この裁判は有効という最高裁の判例もあります。
 本来のトラブルにこの問題が加わってますますややこしいことになりますから、Aさん、Bさんともに迷惑な話になります。
 また、このような場合、弁護士自身は弁護士会の懲戒処分を受ける可能性があります。
 弁護士もこのことは分かっていますから、Bさんとしては是非、その弁護士に代理人を引き受けてほしいと思っても、すでにAさんから相談を受けたので引き受けられないと、弁護士から断られる、ということになります。
 
・遺産分割~共通の敵がいなくなると・・・・
 相続でもこの点が問題になることがあります。例えば、A、B、C、Dという4人の兄弟が共同相続人になっている場合に、Aに対して、B、C、Dの3人が争うことがあります。原因は色々ですが、例えばAが遺産を独占しようとしているので、他の兄弟が団結して争うという場合があります(当面の共通の敵はA、という場合です)。
 このような場合、B、C、Dが1人の弁護士に相談にいくことがあります。弁護士としても、当面の問題は、Aが1人で財産を独占しようとしていることが問題ですから、3人からまとめて話を聞いた方が無駄がありません。

  ただし、ここで弁護士が注意することは、当面の共通の相手はAだとして、その問題が片付いた後、B、C、Dの3人はどうするのか、ということです。「Aに対する問題が解決した後の3人の問題は、3人で話し合って解決すると決めてある」で、という場合はとりあえず問題はないかと考えます。
 ところが、当面の敵はAだが、Aとの問題が解決したら、今度はB、C、Dの3人の争いになる、ということが予想される場合には、ちょっと待ってください、ということになる可能性があります。

  B、C、Dの3人の争いが始まった場合、それまで3人から依頼を受けていた弁護士は、B、C、D3人の誰の代理人にもなれない(つまり、事件から完全に手を引かなければならなくなる)というのが弁護士会内の主流的な意見です。
 ただし、この考え方に対して、弁護士会の中にも異論があります。争いが始まる前は、共通の敵がAということで、B、C、Dは利害が一致していたのだからここまでは問題ない、B、C、Dの対立が現実のものになった時点で、B、C、Dの誰か1人の代理人になることは利益相反ではない、という考えです。

 このように一応、異論はありますが、弁護士としてはやはり問題になるようなことは避けたいところです(弁護士会内で意見が統一すればいいのですが、具体的な問題が起こらないと決着はつきそうにありません)。

 このため、B、C、Dが将来対立することが予想される場合には、他の弁護士を紹介することを検討します。
 また、B、C、Dの3人で対立することはありません、という場合でも、「万一、3人で対立が起こったような場合には、私はもうみなさんの代理人になることはできません」と言うことにしています。
 対立が起こらなければ一応、問題はありませんが、家庭裁判所の調停では、調停成立の前に(要するに事実上、調停がまとまった後で)、B、C、Dのうち、2名からは代理人を辞任してもらい、本人もしくは他の弁護士(通常はもとの弁護士が紹介する弁護士)が代理人になり、B、C、Dの3人に同じ弁護士が就いたまま遺産分割調停を成立させないようにする取り扱いをしています(あるいは、B、C、Dの3名から同じ弁護士が代理人に就いていることに同意するという書面提出を求めます)。

・遺言執行者の利益相反行為
 
遺言に関して、利益相反行為が問題になる典型的な例としてもう1つ。遺言執行者が、遺留分減殺請求事件で相続人の一方の代理人になる場合があります。
 弁護士が遺言執行者になるケースとして、遺言者と親しかった弁護士が遺言者の依頼を受けて遺言作成に関わり、この弁護士を遺言執行者にするという内容の遺言を作る場合が多くあります。遺言者にしてみれば、親しい弁護士に死後の遺言執行もきちんとやってほしいということです。
 ところが、この遺言が、特定の共同相続人に財産を多く相続させ、他方の共同相続人の遺留分を侵害している場合、相続開始後に遺留分減殺請求の裁判などが起きます。
 遺言執行者は、遺言者からの依頼で就任することが多いのですが、相続開始後は法律上、共同相続全員の代理人とみなされます。
 このため、後になって共同相続人間で争いになった場合に、共同相続人の一部の代理人に就くことは利益相反行為なります。訴訟の無効や弁護士の懲戒の問題が起こります。

  これについての懲戒事例は多く、現在は、弁護士全体の常識となっていると思います(最近の懲戒事例にもこの種事案が掲載されていますが、事案自体は数年前のものがほとんどで、相手方の弁護士も理解しているので直ちに異議を出す例が多いです)。
 要するに、遺言執行者をしていた弁護士には、共同相続人間の裁判は依頼できない、ということです。(*)

(*) 紛争も色々あり、遺言執行者の立場で裁判ができる場合もあります。当該弁護士などに確認してください。

▲TOPへ

 

相続の弁護士・ホーム相続の基礎知識相続・遺産分割の費用
よくある質問~相談までの流れと費用など| 相続コラム~相続にまつわる色々な話
遺言コラム~遺言にまつわる色々な話 | アクセス | 法律相談のお問い合わせ

 
 
賃貸借契約の相談は下記の リンクをクリックしてください。
 
賃貸借契約
 
借地契約の相談は下記の リンクをクリックしてください。
 
借地
 
相続関係の相談は下記の リンクをクリックしてください。
 
相続
 
競売関係の相談は下記の リンクをクリックしてください。
 
競売
   

 
弁護士 内藤 寿彦  東京弁護士会所属

個人情報ポリシー
〒105-0001 東京都港区虎ノ門5丁目12-13 白井ビル4階  
TEL:03-3459-6391 / FAX:03-3459-6396   Copyright NAITO TOSHIHIKO LAWYER OFFICE ALL Rights Reserved.