【目次】
1.遺産分割しても相続人のものにはなりません
2.こんなことがあると他人の不動産が被相続人名義になります
3.不動産について裁判が起こされると遺産分割調停は進められません
4.亡くなった人から別の亡くなった人に登記名義を移す裁判

1.遺産分割しても相続人のものにはなりません

 遺産分割をしようという時に、ある財産が相続財産かどうかが争いになることがあります。
 家庭裁判所の調停や審判で、その財産が相続財産だという前提で遺産分割をしても、第三者が裁判を起こして、亡くなった人の財産ではなくてその第三者のものだと認められると、その財産は第三者に取り戻されてしまいます。そのため、残った遺産について、遺産分割を初めからやり直さなければならないこともあります。

 つまり、第三者の側からすると、遺産分割協議が進められていても、結果的に財産を取り戻すことができるわけです(とは言え、遺産分割されて登記が移転すると話がややこしくなるので、遺産分割をストップさせた方がいいです)。偽造書類が使われて勝手に自分の不動産が赤の他人の名義になっていたというような場合もあるかも知れませんが(相続絡みでは経験がありませんが、世の中にはそんな事例もあるかも知れません)、通常は何らの理由で、合意の上で登記名義を亡くなった人のものにしていた、という場合が多いと思います。

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2.こんなことがあると他人の不動産が被相続人名義になります

 例えば、こんな話がありましたる。Aさん(男性)がBさんと結婚して、家を購入するのですが、その時にBさんのお母さん(Cさん)の名義で登記しました。Aさんは婿入りみたいな感じですから、Bさんのお母さん(Cさん)に気を使ったということです。60年くらい前の話です。これだけの話だと、家の購入資金をAさんが出してCさんに贈与したという可能性もあります(その場合は家はCさんのものです)が、その他、色々な事情や証拠がありました。

 その後、何十年も経ち、先にAさんが亡くなり、それからさらに時が経ってCさん(お母さん・家の名義人)が亡くなりました。CさんにはBさんの他にも子ども(Dさん)がいました(Cさんのご主人はAさんとBさんが結婚する前に亡くなっていました)。つまり、Cさんの子のBさんとDさんが、Cさんの相続人になります。

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3.不動産について裁判が起こされると遺産分割調停は進められません

 そして、DさんがBさんを相手に遺産分割の調停を起こしました。上記の家が、名義人のCさんの財産という前提です。これに対して、Bさんは「家はCさんのものではない」という裁判を起こしました(この裁判は家庭裁判所ではなくて地方裁判所に起こすことになります)。
 もしも、Bさんの言うことが認められると、遺産分割をしても無効になります。つまり、調停は、地方裁判所の裁判の結果を待たないと進められません。このため、Dさんが申し立てた調停は、一旦、取り下げられました。

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4.亡くなった人から別の亡くなった人に登記名義を移す裁判

 Bさんが起こした裁判は、「真正な登記名義の回復を理由として、亡くなったCさん(お母さん)名義の登記をすでに亡くなっているAさん(夫)の名義に移す手続をしなさい」という裁判です。
 Cさん、Aさんが生きていれば普通に「Cさんは登記をAさんに移す手続しないさい」という裁判を起こすのですが、二人とも亡くなっているのでこのような裁判を起こすことになりました。(*1)

 また、この裁判では、AさんもCさんも亡くなっているので、裁判の原告と被告は、それぞれの相続人になります(BさんはCさんの相続人でもありますが、自分が原告の一人ですから被告にはなりません)。このため、Bさんとその子(Aさんの相続人)が原告、Dさんが被告になりました。

 60年も前の話ですが、時効という手は双方とも使えず、事実関係や証拠も錯綜していましたが、結局、和解が成立し、Bさん側がDさんにそれなりのお金を払って家を自分たちのものにしました。当然、登記名義を変えるわけですが、その登記は亡くなったCさんから亡くなったAさんに所有権移転登記をする、という内容です。
 そして、その後で、Aさんの相続人のBさんとその子とでその家について遺産分割をすることになります(DさんはAさんの相続人ではないので、この遺産分割には関与しません)。登記名義がAさんになっていますから、この後は普通の手続での遺産分割になります。

(*1)もしも、Aさんが亡くなっていない場合には、Aさんは、Cさんの相続人を相手方(被告)にして、「亡くなったCさん名義の登記をAの名義に移す手続をしなさい」という裁判を起こすことになります。ただし、これは、登記名義がCさん名義のままになっている場合の話です。すでにCさんの相続人の名義になっている場合には、「相続人の名義からAさんの名義に登記を移す手続をしなさい」という裁判を起こすことになります。(▲本文に戻る

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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391