相続分の譲渡とは、自分の相続分を、他の相続人にあげることです。

 相続の放棄をすれば、自分の相続分がなくなり、その分、他の相続人の相続分が増えます。しかし、他の相続人が複数いる場合、ある相続人には自分の相続分をあげたいが、他の相続人にはあげたくない場合があります。その場合に「相続分の譲渡」が利用できます。

 相続が発生し、戸籍の調査をしたら、多数の相続人がいることが判明する場合があります。全く知らない異母兄弟姉妹がいたりして、一度も顔を合わせたことのない人もいたりします。また、よく顔を合わせていても、遺産分割では、親しい人達とそうでない人達の2派に分かれることがあります。

 話を単純にするために、A、B、Cの3人が等しい割合で相続分を持っているとします(相続分は、それぞれ3分の1です)。この場合、Aと親しいBが「自分はいらないから相続を放棄する」と言うことがあります。

 しかし、相続の放棄をすると、Bが持っていた相続分(3分の1)は、AとCに等しく分けられることになります。つまり、AもCも、Bの持っていた3分の1の相続分の半分(6分の1)を持つことになります。その結果、AとCの相続分は2分の1ずつになります。

 ところが、Bの本音は「自分が相続する分は、Aにあげる」ということだったとすると、AもCも相続分が等しく増えるという結果は、Bとしても不本意なことになります。このような場合は、相続の放棄ではなく、「相続分の譲渡」という手続を取ることができます(相続の放棄をした後は相続分がなくなるので、相続分の譲渡はできません)。

 相続分の譲渡は、書面だけでできます。相続の放棄のように、家庭裁判所に申告するなどの手続は不要です(*1)。ただで自分の権利をあげるのですから、贈与のようなものですが、共同相続人の間で相続分を譲渡する場合には、贈与税はかかりません(相続税の総額に変わりないからです。ただし、相続開始から長い年月が経ってから遺産分割する場合、税務署が、遺産分割ではなくて遺産分割済みの共有物の分割と認定して、贈与税を課す可能性があります。弁護士、税理士の意見を聞いてから手続をすべきです)。

 この手続を取ると、Bの相続分は、全てAに移ります。その結果、Aの相続分は、3分の2になります。Cは前と同様、3分の1の相続分のままです。そして、これを前提としてAとCとの間で遺産分割協議をすることになります。前記の通り、相続分の譲渡をしても贈与税はかかりますせんが、Aの相続分が増えるため、その分、Aについては相続税の納付額が増えます(当然だと思いますが)。

 なお、注意しなければならないのは、債務の負担の問題です。相続分の譲渡をしても、相続放棄と違って、被相続人(亡くなった人)が負担していた債務の相続を免れることはできませんAとBとの間では、相続分の譲渡を受けたAが、Bの相続した債務を支払わなければならないのですが、債権者はこれに拘束されません。そのため、Bには法定相続分の債務(被相続人の債務の1/3)が残ります。債権者がBに請求すれば、Bはその支払いをしなければなりません(支払った後で、Aに対して支払った分を請求することはできます)。この点について不安があれば、相続放棄をするしかありません。

 ここでは、「他の共同相続人」に対して、相続分を譲渡する場合についてお話しましたが、法律上は第三者に対して、相続分を譲渡することも可能です。しかし、第三者に対しては、個々の財産の持分(法定相続分に基づく持分割合)の譲渡が行われることはありますが、相続分そのものの譲渡が行われたというのは聞いたことがありません(あっても相当希な場合と思います)。(*2)

(*1) 家庭裁判所で遺産分割の調停をやることを前提に相続分の譲渡をする場合、あるいは調停中に相続分の譲渡をする場合には、その届出が必要です。届けがないと、家庭裁判所では、相続分の譲渡があったことが分らないからです。相続人だけの協議で遺産分割を成立させる場合には、家庭裁判所に届ける必要はありません。相続の放棄のように、家庭裁判所に申告しないと効力が発生しない、ということではありません。(▲本文へ戻る

(*2) 共同相続人が、相続分の譲渡ではなく、個々の遺産の持分を第三者に譲渡した場合の処理(分割手続)については、「遺産共有と通常共有が併存する場合の分割手続」をご覧ください。

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弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13 白井ビル4階  電話 03-3459-6391