遺言書が何通もある

 毎年、遺言書を書くという人もいます。年ごとに遺言書を書き直しているのです。そのような場合には、時々気が変わることもあるかも知れませんが、遺言書の内容が、極端にころころ変わることはないと思います。(*1)

 問題なのは、亡くなる前の数か月程度の間に正反対の遺言書が何通も作られているような場合です。 典型的なのは、亡くなった人の子AとB(AとBは兄弟)がいて、亡くなる前に本人がAとBの間をいったり来たりしていたような場合です(いったり来たりしている間に、それぞれの子にとって都合のいい内容の遺言が作られたりします)。場合によっては寝たきり状態の親の奪い合いみたいなことも起こります。 そんな時に、Aに全部の財産を相続させるという遺言書が作られたかと思うと、しばらくして、今度はBに全部の財産を相続させるという遺言書が作られ、また、今後はAに相続させるとか・・・・

 こうして本人が亡くなってしまうと、本人の真意はなんだったのか分かりません。AでもBでもどちらでもいいから、面倒みてくれればいいということだったのかも知れません。 こんな話はドラマか小説の話みたいだと思われるかも知れませんが、こんな場合にどうするのか、ある程度は法律に書いてあります。法律に書いてあるくらいですから、この種の問題は昔からあったということです。

 では、どうなるかと言うと、1通できちんとした遺言書になっている場合には、最後の遺言書が有効になる、というのが原則です。

(*1)遺言書が自筆遺言の場合、本人が亡くなると、全ての自筆遺言について、検認の手続が必要になります。自筆遺言で、遺言を書き直した場合には、前の遺言書を廃棄した方が、将来の相続人のためになります(廃棄するのは、あくまでも、遺言を書いた本人です)。(▲本文へ戻る

次の遺言で前の遺言をどこまで取り消したのか分からない場合

 ところが1通できちんとした遺言になっていない場合もあります。1通できちんとした遺言書になっていない場合というのは、どういう場合かと言うと、「前の遺言を取り消す」としか書いていないような遺言書です。 第1遺言書があり、続いてこれに反する第2遺言書があり(この場合、第1遺言は第2遺言で取り消されたことになります)、そして、第3の遺言書に「第2遺言を取り消す」としか書いてない場合、第2遺言書が取り消されたことは間違いないのですが、それでは、第1遺言書が復活するのか、という問題が起こります。

 結論を言うと「第1遺言を復活させる意思が読み取れる場合には、第1遺言は復活する」ということになります。逆に言えば、「第1遺言を復活させる意思が読み取れない場合には、第1遺言はすでに第2遺言で取り消されているので、第1遺言は復活しない」ことになります。 つまり、単に「第2遺言を取り消す」としか書いてない場合には、第1遺言を復活させる意思があったとは言えないことになり、第1遺言は復活しません。 この場合は、第1遺言も第2遺言もなかったことになります(つまり、遺言が1つもなかったことになります)。このため、法定相続分で遺産分割をすることになります。兄弟AとBの二人が相続人なら、二人で半分ずつです。

 なお、AとBの二人の子どもが相続人の場合、「Aに全部相続させる」「Bに全部相続させる」という遺言書は、どちらが有効になっても、片方の遺留分を侵害しています。遺言書で財産をもらえなかったAまたはBは、相手方に対して、遺留分侵害相当額のお金を払うよう請求できます(遺留分侵害請求です)。相続人が二人だけなら、相続財産の1/4について遺留分があるので、その分について自分に遺留分侵害分をお金で返せと言うことができます(2019年7月1日よりも前に相続が発生した場合には、侵害された持分が遺留分権利者のものになり、共有物の分割請求になります)。

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