共有の土地を分割すると建物はどうなる?
共有土地の上に建物が建っている場合でも、土地だけの共有物の分割請求が可能です。その場合、建物の所有者が土地の共有者の1人の場合もあります。その人が他の共有者の持分の買い取りができれば、その人が土地の単独の所有者になり、建物はそのまま維持されるので、何の問題もありません。
しかし、それ以外の共有者が全面的価格賠償分割で、建物所有者の持分を取得したり、土地が競売になる場合もあります。その場合、建物の所有者は何か権利を主張できるのでしょうか。
これについて弁護士が解説します。
【目次】
1.共有土地の競売による分割の場合
(1) 建物の所有者の権利はなくなります
(2) 具体的な例でお話します
ア.共有の発生
イ.共有土地の分割
(3) 建物の補償はされないのが原則です
ア.競売の評価では取り壊し費用を引きます
イ.建物の所有者は土地の利用権がありません
ウ.他の共有者に対して補償を求めることもできません
2.全面的価格賠償(賠償分割)による場合
(1) 賠償分割の場合も、建物所有者への補償はありません
(2) 建物所有者が地代を払っていた場合
3.例外的な取扱が認められる場合
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1.共有土地の競売による分割の場合
(1) 建物の所有者の権利はなくなります
結論から言いますと、共有土地の上に共有者の1人(1人でなくて2人でもいいですが)の建物が建っている場合、共有土地の分割の裁判で競売による分割の判決が出て、競売が行われた場合、建物の所有者は土地の競落人から建物の取り壊しと土地の明渡を求められます。(*1)
(*1) ここでお話するのは、あくまでも、建物の所有者が、土地の共有者の一部の場合です。建物の所有者が第三者の場合には、ただで土地を使っていれば使用貸借、地代を払っていれば借地権の問題になります。そして、土地が共有かどうかに関係なく競売になると、借地なら権利が主張でき、使用貸借なら主張できないことになります。
(2) 具体的な例でお話します
ア.共有の発生
具体的な話の方が分かりやすいと思いますので、土地が、A、B、C、Dの4名の共有で、この土地の上に、CとD所有(2名の共有)の建物がある場合を例にします。なお、Dは他の3名の母で、3名は兄弟姉妹です。
このような共有関係になったのは遺産分割です。もともとDの夫で他の3名の父親のEが、土地建物を所有していて建物にはCとDが同居していました。そして、Eが亡くなり相続が発生しました。
このような場合の遺産分割の目的は、母のDの生活の確保です。Cも同居していたので、建物はCとDの共有として、土地は4名の共有にしました。遺産に金融資産があったので、これはDが取得しました。
こうして遺産分割が終わりましたが、Dを地代は払っていません(もともと払う合意はありませんでした)。固定資産税は払っていましたが、ただで土地を使っているのですから、当然です。
A、Bの2名は、土地の共有持分を持っていますが、実質的には、何の利益もありません。いずれ、Dの相続が発生したら、その時に相続と共有物分割でお金にすればいいだろうと思っていました。
ところが、E(父)の相続から30年が経ち、Dも施設に入って、建物に住んでいるのがCだけになりました。
また、A、Bの2名の中にはお金が必要な人も出てきました。
こうなると、共有持分だけ持っていて、何の利益も得ていないA、Bの2名は、持分をお金にすることを考えました。
イ.共有土地の分割
まず考えたことは、第三者に売ること(任意売却)でした。しかし、建物に住んでいるCは納得しません。信頼関係があれば、話し合って、Cの取り分を予め決めて任意売却ができたかも知れません。しかし、信頼関係が築けないので、話し合いができません。
こうなると共有物分割の裁判を起こすしかありません。A、Bの2名が原告になり、CとDを被告にして裁判を起こしました(Dは成年後見人が就いていたので、一緒に原告にはなれませんでした)。
建築制限の関係で、土地を4人で現物分割することはできません。また、高級住宅地の土地なので、誰かが他の持分を買い取って、全面的価格賠償分割(賠償分割)をすることもできません。そうなると、競売して代金を持分に応じて分けることになります。
(3) 建物の補償はされないのが原則です
ア.競売の評価では取り壊し費用を引きます
競売による分割の場合、土地そのものが競売の対象になります。このため、建物は「件外物件」と呼ばれます。つまり、競売の対象外になります。
裁判所が競売のために公開する三点セットの中に物件の評価書があります。不動産鑑定士の評価した基準価格(競売に参加しようとする人に示す、基準となる価格)の算定方法を見ると、土地の更地価格の2割が引いてあります。これは建物の取り壊し費用だと言われています。通常の土地の売買でも、建物を取り壊すことが予定されている場合、取り壊し費用を引いて土地の値段が決まります。しかし、競売の評価では、実際の取り壊し費用を算定するわけではなく、建物の規模に関係なく、木造だったら土地の更地価格の1割、鉄筋コンクリート建物だったら2割引くのが慣例になっています。
しかし、競売に参加する入札者は、実際の建物取り壊し費用がいくらになるのか検討して、土地をいくらで入札するのか決めます。その意味で基準価格の算定の時に更地価格の2割を引くのは、あまり意味はありません。
また、このように基準価格を決めるのに更地価格の2割を引いても、この分が、建物の所有者の権利になるわけではありません。
イ.建物の所有者は土地の利用権がありません
このようにして期間入札で、最高価格買受人が決まり、売却許可決定が出て、この人が代金を納付すると、この人が土地の所有者になります(登記は裁判所が法務局に嘱託して付けます)。
競売で土地の所有権を取得した競落人は、建物の所有者のCとDに対して、建物を取り壊して、土地を明け渡すように請求できます。CとDは、新しく土地の所有者になった競落人に対して、権利の主張ができません。競落人が裁判を起こせば、CとDは建物を取り壊して土地を明け渡すしかありません。
競落人も裁判を起こして強制執行をするのは大変なので、建物に住んでいたCを建物から退去させて、自分の費用で建物を取り壊すことになりました(通常の処理だと思います)。
なお、土地の競売が行われても、CとDの建物の所有権は消滅しません。しかし、建物の所有者のCとDは、土地の利用権がありません。もともと、共有者の1人として、土地の利用権があり、それに基づいて、土地の上に建物を所有していたのです。しかし、共有物分割による競売によって、土地の持分権は消滅します(その代わりに、土地の代金のうち、C、Dの持分に相当する額のお金が支払われます)。そのため、CとDは土地の上に無権限で建物を所有していることになります。その結果、競落人から、建物を取り壊して土地を明け渡すように求められることになります。
ウ.他の共有者に対して補償を求めることもできません
それでは、共有物の分割の裁判の時に、CとDが他の共有者に対して、建物の補償のようなものを要求したり、競売での売掛金の分配率を持分相当額よりも高くできるのか、というと、これはできないのが原則です。
共有物の分割の裁判の判決には、共有物(土地)を競売にして、その売掛金(競売の費用を引いたもの)を、持分割合で分配する、と書いてあるだけです。競売を担当する裁判所は、その判決に従って、競売して、配当(正確には剰余金の分配と言います)を行うだけです。
この判決後に、建物の所有者が他の共有者に、補償のようなものを求めることはできません(そもそも、土地の共有物の分割で、持分相当のお金をもらっているので、補償する必要がないということになります)。
先の例では、建物は遺産分割から30年が経過していて(その前から建っていて、築50年でした)、Cも30年住んでいた上、土地の競売で、別の居住場所(購入するにしても賃貸物件に住むにしても)確保のために十分なお金が入ることになっていました。というわけで可哀想でもないだろうという事案でした。
それでも、共有土地の上に共有者の建物が建っている場合も、色々なケースがあり得ます。家を失うと住むところに困るというケースもあります。また、建物が新築してまだそれほど時間がたっていない場合もあり得ます。そのような場合には、例外的に救済が検討されることになります。中には、共有物分割請求自体を権利濫用で許されないとした判決もあります。それについては後でお話します。
2.全面的価格賠償(賠償分割)による場合
(1) 賠償分割の場合も、建物所有者への補償はありません
賠償分割は、共有者の1人が、他の共有者の共有持分を買い上げる方法での共有物の分割です。
通常は、共有者の1人が土地の上に建物を所有して住んでいる場合、建物を所有する共有者が、他の共有者の持分を買い取りたいと言えば(買い取るだけの資力があることが条件ですが)、裁判所は、買取を認めます。つまり、その人が単独の土地の所有者になって、その上にある建物を維持することができます。
ところが、建物の所有者が、他の共有者の持分を買い取るだけの資力がない場合があります。例えば、土地の値段が高額な場合です。また、土地の持分が、建物所有者が1で、他の共有者が9の場合なども、建物所有者にとって、買取は無理、ということになります(単にお金がない場合もあり得ます)。
このように、判決で共有持分の買取が認められ、代金が払われて、建物所有者の土地の持分が、他の土地の共有者のものになると、持分を取得した共有者は、先にお話した、土地の競落人と同じ立場になります。
つまり、建物の所有者に対して、建物を取り壊して、土地を明け渡すように請求できます。(*1)
これは、競売の場合と同じように、建物の所有者が、土地の利用権を失ってしまうからです。利用権を失えば、土地の上に、無権限で建物を建てていることになります。
(*1) これはあくまでも、裁判の手続の中で、賠償分割として、共有者間で持分の移転が行われた場合です。裁判ではなく、話し合いで、持分を移転した場合は話が違います。その場合は、共有持分の移転の合意をする時に、建物を所有している共有者に補償をするかどうかを話し合って決めます。(▲本文に戻る)
(2) 建物所有者が地代を払っていた場合
共有物分割の前に、建物の所有者が、他の共有者に地代相当額を支払っていた場合に借地権が認められるのでしょうか。結論を言えば、認められないのが原則です(建物所有者が土地の共有者の1人ではなくて第三者の場合には、借地権が認められます)。そのため、借地権相当の補償を求めたり、分割後も借地権があるという主張はできません。
その理由は、共有の性質にあります。土地の共有者は、自分の持分に応じて、土地全体を使う権利があります。そして、土地を1人の共有者が独占して、建物を建てて利用している場合には、他の共有者は自分が使えなかったことについて、建物を所有する共有者に対して、地代相当の不当利得の返還請求(支払い請求)ができます。
そのため、建物所有者(土地の共有者の1人です)が地代相当のお金を払っていたからと言って、借地権が発生してしまう、というのは、共有の性質に矛盾することになります。(*1)
(*1) 借地権が成立しないもう一つの理由があります。借地借家法10条に自己借地の規定があります。これによると、単独所有の土地の上に、土地の所有者を含めた数人の共有建物を建てる場合には、借地権の成立を認めます。しかし、その逆は認めません。つまり、数人の共有による土地の上に、その共有者の1人が建物を建てても、借地権の成立は認められないのです。
3.例外的な取扱が認められる場合
原則として、裁判で、共有土地の分割をする場合、共有者の1人が土地の上に建物を建てていても、保護されません(現物分割や、建物所有者が他の共有者から持分を買い取る賠償分割の場合は、別です)。
しかし、それでもどうしても、建物所有者に気の毒だという場合があり得ます。無論、共有物の分割を求めている他の共有者の事情もあるので、単に建物所有者に気の毒だというだけでは原則を変える理由にはなりません。
とは言え、建物所有者の共有者と他の共有者、それぞれの事情を考慮して、どうしても、共有物の分割の請求が不合理だという場合には、権利の濫用として、共有物分割の訴えが認められないこともあります。
東京地裁平成8年7月29日判決は、共有マンションの分割請求の事案です。子が母に対して、共有マンションの分割請求をした事案です。これについて、裁判所は権利の濫用なので、訴えは認められないとしました。
この事案は、子と母(離婚して配偶者なし)が共有(持分は概ね1/2ずつ)していましたが、居住しているのは母だけで、子は医師として別の高級マンションに住んでいました。母は高齢の上に持病があり、資産はほとんどなく、そのため、子の持分を買い取ることはできず、共有マンションは競売で分割するしかありませんでした。しかし、競売の代金では母が別の場所で生活するのには到底、足りないことが予想されました。なぜ、このような裁判を子が起こしたのか、判決を一読してもよく分かりませんが、いずれにしても、共有物の分割請求を認めると、老齢で病弱の母が路頭に迷うことになるし、子に共有物分割をする必要性も強いとは認められないという事情がありました。
この事案は、マンションの共有の場合ですが、共有土地上の建物の所有者(土地の共有者の1人)の場合も、土地の共有持分相当のお金が入っても、他の居住場所を確保できない場合には、問題とされる可能性があります。
この点、最初に例にしたA、B、C、Dの4名が土地を共有にしていた事案では、建物の共有者で現にその建物に住んでいたCに対して、1億を超えるお金が入ることが予想されましたし(実際に入りました)、税金その他の負担をしないで30年も住んでいたので、権利濫用との主張もありませんでした。
その他、問題になりそうな例としては、例えば、他の共有者の同意を得て、共有土地の上に多額の建設費をかけて建物を建てたのに、そのからそれほど経っていないのに、共有物の分割請求をされた場合などが考えられます(実際の裁判例は見当たりません)。この場合、分割禁止の合意ができる5年間は、分割禁止の合意があったと推認されるということで処理されることも考えられます。しかし、5年を越える場合には、分割禁止合意があったと認めることはできず、権利濫用が問題になるだけだと思います。
権利濫用が認められるかどうかは、それぞれの事案によりけりなので、類型化するのは難しいのですが、誰が見ても、それはちょっとひどいのではないか、という事案が問題になります。
4.関連記事
●裁判による共有物分割の一般的な解説は、「共有物の分割の基礎知識」をご覧ください。
●遺産分割前の共有と通常の共有が競合している場合(共有物の分割をしようとしたら、共有者の1人が亡くなり、その持分について遺産共有が生じた場合や、遺産分割前の共有持分が第三者に譲渡された場合)については、相続の相談の「通常共有と遺産共有が併存する場合の分割手続」をご覧ください(ページが飛ぶので、このページに戻り場合には、ページの左上の「←」をクリックしてください)。
●賃借権による借地権の準共有の分割については、借地の相談の「共有借地の分割」をご覧ください。
(この記事は、2025年1月に書きました。)
弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階 (電話 03-3459-6391)