●競売について書きます
●何を買うのか注意しましょう~底地・共有物・借地権
●余計なものが付いていたりします~件外建物について
●占有者がいたりします
●3点セットをよく読みましょう
●占有屋
●競売について書きます
相続などは誰でも必ず直面します。トラブルが起きない場合でも、法律上これはどうするんだ、みたいな問題に直面します。
それに対して、競売で物件を買うというのは、興味のある人だけの話になります。
物件を買おうという人よりも、住宅ローンが払えなくなるなどして自宅が競売にかけられた、という人の方も多いかも知れません。その場合は、債務整理などの話になります。競売の手続を妨害することはできませんか、という相談には応じられません(そんな相談に応じますという人がいたら、かえって注意してください)。ただし、任意売却をするので競売を取り下げてもらうというのは、関係者が同意すれば何の問題もありません。
ここでお話するのは、競売で物件を買うことに興味を持っている人のためのお話です(興味のない人でも、読めるようにしたつもりです)。
競売物件を購入して、そこを自宅にしたり、賃貸して収入を得ている方もいますが、これから、という人はちょっと注意してください、ということでお話させていただきます。
●何を買うのか注意しましょう~底地・共有物・借地権
裁判所がしてくれるのは登記だけです
以前は、新聞に裁判所の物件広告が掲載されていました。現在は新聞の広告はなくなりましたが、ネットで情報が発信されています。(*1)。
競売物件の情報です。競売では、普通よりも安く買えると言われていますが、実際には、いい物件は安くはないです。安いものがあるとすれば、安いなりの理由があります。
裁判所が売るのですから、所有権などの権利はあなたのものになり登記も裁判所がしてくれます。
そう言うと裁判所がいたれりつくせりのサービスをしてくれるように聞こえますが、裁判所がしてくれるのはそこまでです。
裁判所が鍵を持ってきて、物件の引き渡しをしてくれるわけではありません。
前の所有者がそのまま住んでいたりします。素直に出て行ってくれればいいのですが、出て行ってくれなければ、法的手続が必要になります。そのための費用がかかります。競売物件は、そんなことを前提にして、何の問題もない物件よりも安い価格になっているのです。
(*1) 裁判所の「BIT 不動産競売物件情報」はこちらです。→https://www.bit.courts.go.jp/app/top/pt001/h01 (▲本文に戻る)
普通ではあり得ない物件も売っています
それ以上に注意しなければならないのは、何を買うのか間違わないことです。
普通の不動産情報ではあり得ないものが売りに出されていることがあります。
共有持分だけだったり、借地権のついた底地が売りに出ていることがあります。ネットでも気をつけて見れば分かりますが、自宅用に一戸建ての土地建物を買うつもりで、間違えてこれらを買ってしまったら大変なことになります。
売り物が借地権の着いた底地の場合もあります
借地権のついた底地の場合は、土地の上に借地権付きの建物が建っています。底地を買い取っても、その建物の所有者から地代を払ってもらえるだけです。土地の上の建物に対しては何の権利もありません。つまり、建物に住んでいる人を立ち退かせたり、建物を取り壊す権利はないのです。
最初から借地権者と交渉して借地権を買い取るつもりならいいのですが、うまく行くとは限りません(借権者がどうしても売らないと言いば、それまでです)。このような物件を買うのは、この種のプロです。(*1)
(*1)「プロ」というのは、この種物件をいくつも買い上げている事業者のことです。事業者の場合、うまくいけば借地権を安く買ったり、底地を高く売ることができ、失敗しても、他の物件の利益で補うことができるので致命的なことにはならないのです。なお、個人でこの種の物件を買って、収益でもうけている人もいます。ただし、それは特別な知識とノウハウをもった人です。
土地の利用権のない、建物だけが売っている場合もあります
借地の場合は、土地の使用権限があり、その上の建物とセットになって売っています。
借地の場合も、気をつけなければならない点が色々とあります。(*1)
しかし、それ以上に気をつけなければならない場合があります。借地のような土地の利用権限があればともかく、それがないのに、建物だけが売っていることがあります。
ありがちなのは、差押えになる前は、土地の所有者から、土地をただで借りていて(使用貸借です)、その土地の上に建物を建てて、建物だけが差押えられた場合です。借地権と違ってこの場合は建物が競売になっても、土地の使用貸借の権利は移転しません。つまり、競落しても、土地の使用権のない建物が手に入るだけで、土地の所有者から建物を取り壊して土地を明け渡すように求められることになります。
このような権利関係は、3点セットの物件明細書や評価書を見れば、はっきりと書いてあります。そもそも、競落後に土地を明け渡さなければならないなら、売却するなよと言いたいところですが、法律上、土地と建物は別の不動産ということになっているので、このような建物も競売の対象になります。
母親から子どもが土地をただで借りて、土地の上に建物を建てていましたが、子どもが借金をして、建物を差押えられて競売になったケースがありました。それだけにならあり勝ちな話かも知れませんが、競売の途中で、母親が亡くなり、もとの建物の所有者だった子どもが、相続で土地を取得したというケースがありました。競売に参加しようとする人にしてみれば、土地所有者になった子どもに、権利を主張できないかと考えてしまいます。
しかし、競売のための差し押さえ後に上記のようになっても、競落するのは、土地の利用権のない建物だけです。土地の所有者が建物所有者だとしても、そのことに変わりはありません。
なお、競売の原因になった差押えや抵当権の設定の時に、土地と建物所有者が同一人だった場合には法定地上権という土地の利用権が成立します。法定地上権が成立するのは、このような場合だけです。抵当権設定や、差し押さえの時点では、土地と建物の所有者が同一ではなくて、競売手続中に、遺贈などで、土地と建物の所有者が同一になる場合(つまり、上記の例です)もあり得ますが、法定地上権は成立しません。この場合も、建物だけが競売の対象で、競落しても、土地の利用権のない建物を競落したことになります。(2024.11月追記)
(*1) 借地権付きの建物が売りに出されていることもあります。建物には借地がついています(このような物件が競売になるのは、珍しいことではありません)。ただし、この場合は、競落した後で、底地権者(地主)の承諾をもらう必要があります。承諾してもらえない場合は、裁判所から「承諾に代わる許可」をもらう必要があります。これは競売とは別の手続で、競売を担当する部署が自動的にやってくれるわけではありまん。自分で申立をしなければなりません。しかも、競売のお金を納めてから2か月以内に申立をしないと、申立自体ができなくなります。この点は、要注意です。また、地代の滞納があり競落後に借地契約を解除されてしまうような危険な物件が競売に出されている場合もあります。これらについては「借地の法律相談」の「借地の競落人は要注意」をご覧ください。(▲本文に戻る)
共有持分の場合もあります
共有持分の場合、残りの持分は現実に住んでいる人が持っているのが普通です。持分権を取得すれば、その持分権に応じた権利が一応ありますが、建物の利用については現状維持が原則です。過半数の持分を取得したとしても、今住んでいる人を建物から退去させることは難しい話になります(2023.4月から改正法が施行されましたが、居住している持分権者を追い出すのは困難です)。退去してもらうためには、残りの持分を買い取るしかありません。ただし、その持分を売るかどうかは相手次第です。拒否されたら、今度は、共有物の分割を求める裁判を起こさなければなりません。持分を持っていない人が住んでいる場合もあり得ますが、その場合でも、色々ややこしい問題が待ちかまえています。
そんなものを買うわけがない、とおっしゃるかも知れませんが、最近では共有持分の買い取り専用の業者もいます。
ところが、そのような業者でないのに、間違って買ってしまう場合もあるようです。
特に共有持分は、物件目録という物件を表示してある書類の一番下に書いてあります。マンションの一室の場合は、ビル全体の表示から始まり、専有部分の表示や、建物の面積などが長々と書いてあります。その最後の行に「のうち、持分3分の1」という記載が付け足しのように記載されています(評価書を読めば間違うことはないはずですが)。この最後の部分を見落として、物件全体の競売だと勘違いして、買ってしまう場合があります。この場合、間違ったからと言って、買えるのは持分だけです。(*1)
なお、共有物件を専門的に買い取っている業者の場合、残っている持分を買い取るか、競落した持分を買い取らせるかの交渉をします。このような交渉は、プロのやることです。
(*1) つい最近(2024年)ですが、マンションの持分1/4が競売で売り出された例がありました。物件明細書の本文には持分だと書いてなくて、物件明細書についている物件目録を見ると、マンションの一室の表示の最後の行に「持分1/4」と書いてあるだけです。このように、物件明細書だけを見ると間違っても仕方がありません。しかし、評価書を見ると、マンションの一室全体の価格を出した上で、持分1/4を掛けて、さらに市場減価(0.8)と競売減価(0.8)を掛けて、基準価格を出していました。つまり、評価書を見れば、基準価格がバカ安になっていて、その原因が持分1/4を掛けた結果だと分かります。このため、持分だけの評価だと分かります (三点セットではないですが、登記簿を見れば、競売対象が持分だと分かります)。このような物件なのに、基準価格の5倍近い値段で入札した例がありました。明らかにマンションの一室全体の競売と間違えたのが分かります。高いお金を払っても、1/4の持分しか取得できません。裁判所に代金納付する前に気が付いて、代金納付をしないことにするしかないです。その場合、入札前に納めた保証金(基準価格の0.2相当額)は没収されますが、仕方ないです。なお、代金納付までに気が付かないで代金を納付してしまうと、救済される手段はありません。(▲本文に戻る)
●余計なものが付いていたりします~件外建物について
競売物件を買った人にとって、余計なものの最たるものは占有者だろうと思いますが、その話は後でします。ここでは余分な物件がついている、というお話をします。
例えば、一軒家を競売で買ったとします。ところがこの一軒家の他に、広い庭の一角に第三者名義で登記された建物があったりします。このような建物を「件外建物」といいます(「件外物件」というのも同じ意味です)。競売の対象になっていないので、そのように呼びます。この場合、競落しても、その建物に対しては権利がありません。建物の取り壊しの請求ができるかどうかが問題になります(交渉して話がまとまれば買い取りも可能ですが、それができないことを前提に話を進めます)。
通常は、競売の対象となっている土地建物に抵当権が付けられ、その抵当権に基づいて、競売が行われることが多いので、この場合を例に、お話をします。この場合に、問題の建物(件外建物)が、競売の対象になった土地建物の抵当権の登記がされる前に建てられていたかどうかが重要な問題になります。もしも、抵当権の登記前に建てられていたということになると、大変です(いつ建てられたのかは、建物の登記で決まります)。
この場合でも、もとの所有者がただで他人に土地を貸して、これに基づいて件外建物が建てられたという場合には、比較的、話は簡単です。抵当権の登記後に建てられた場合と同じと考えていいからです。ところが、件外建物の所有者が地代の支払いをしていた場合などは、借地権が発生する可能性があります。その場合、地代は取れますが、建物の取り壊しは請求できません。ただし、抵当権の登記の前に件外建物が建てられるということはあまりありません。
ありがちなのは、件外建物が、土地などの抵当権の登記の後で建てられた場合です。ひどい例では、競売を妨害するために競売の申立後に件外建物を建てたりします。今の法律では、少なくとも競売の申立の時点でこのような建物があることが分かっている場合は、まとめて競売の対象にすることができます。ただし、これを利用するかどうかは申立をする人(債権者ですね)次第です。また、利用例は少ないようです。
競売開始になると、裁判所の執行官が対象となる建物の調査をします。現地に行って、占有者に権利関係の確認をしたりします。ところが、競売の対象になっていない件外建物の調査は、買おうかと思っている人からすると物足りない内容になりがちです。執行官にしてみれば、建物の敷地関係の権利さえ確認すればいいので、件外建物の中の占有関係はおまけみたいなものです。このため、裁判所に置いてある現況調査報告書(執行官が書いた報告書)を読んでも、件外建物の中の占有関係が今一つ分かりにくかったりします。
いずれにしても、抵当権の登記よりも後に建てられた第三者名義の件外建物については、建物の取り壊しを請求できます。ただし、引渡命令は利用できません。正式な裁判が必要になります。しかも、件外建物の所有者と建物の占有者全員を相手に裁判をしなければなりません。ところが、件外物件のため、現況調査報告書を読んでも何者が占有しているのか分からないことがあります。
執行妨害のために建てられた疑いがある場合は、件外建物の所有権を第三者に移転したり(移転されると今度は新しい所有権を相手にしなければならなくなります)、占有者が変わる(この場合も新しい占有者を相手にしなければなりません)おそれがあります。そんなことをされると、いつまで経っても判決が取れません。そのため、件外建物について処分禁止の仮処分や占有移転禁止の仮処分を取ってから、裁判を起こすことになります(仮処分については、「家賃滞納事件の法律Q&A」の「仮処分というのは何ですか」をご覧ください。家賃滞納事件の仮処分の説明ですが、競売の仮処分と共通するところがあります)。
そして、裁判に勝った場合ですが、その強制執行は、件外物件の占有者を建物の外に退去させ(その時、建物の中の動産類を建物の外に出します)、それから件外建物を取り壊して、土地の明け渡しを受けることになります。取り毀しの費用は、とりあえず、競落人の負担になります。建物の明け渡しに比べると高額になります(占有者の退去だけで建物明け渡しと同じ費用がかかります)。
どのみちやっかいなことには変わりはありません。競売の入札の前に、裁判所に置いてある書類(物件明細書、現況調査書、評価書)をよく見て下さい。物件明細書にはこのような建物がある、ということと、その権利関係(買った後の土地に対する権利のあるなし)が書いてあります。
●占有者がいたりします
競売物件を買うと、裁判所は権利を移してくれますが、占有者を退去させた上で引渡をすることはしてくれません。
物件を買って、登記もついて、さあ自分のものになったと思ったら、占有者がいたりします(いないこともありますが家具などが放置された状態で残っていることもあります)。
投資物件として買った場合、きちんと賃料を支払ってくれる賃借人がいた方がいいのですが、そうでない場合には、退去してもらいたいところです。
競売の手続中でも、建物の所有者はそれまでと同じように建物の利用ができます。すでに借りていた人が住み続けることは勿論、競売開始後に第三者に賃貸することもできます(ただし、競落後には引き渡し命令で退去させられます)。
裁判所は、このような占有者がいる状態で競売(物件の販売)をして、「さあ、あなたが所有者になりましたよ」と言うだけです。勿論、申立があれば、裁判所は引き渡し命令という命令を出します。これは建物明渡の判決と同じ効力があります。判決と同じと言っても、自分で申立をして、建物明渡の強制執行をしなければなりません(この点は判決の場合も同じです)。
ただし、すぐに引渡命令の申立ができない場合もあります。競売開始前から住んでいる賃借人に対しては、買い受けた後6か月の猶予期間を待たないと立ち退きを要求できません(その場合でも、素直に退去してくれるかどうかは別問題です)。ただし、猶予期間内の賃料(正確には賃料そのものではなく、使用料です)は請求できます。また、この場合、敷金の引き継ぎはありません。退去するから敷金を返してくれ、という問題は起きません。
これに対して、平成16年以前から建物に住んでいる賃借人の中には、短期賃借権といって更新の時から3年間(競売申立前に更新していなければなりませんし、競売申立後、買い受けまである程度期間が経過しているので実際は最長でも1~2年程度)待たないと退去させられない場合もあります。しかも、この場合は敷金の引き継ぎもしなければなりません(つまり、退去させた後で敷金の精算をしなければなりません)。
この場合、敷金額があり得ないくらい異常に高い場合があります(強制執行を妨害するために後から、異常に高い敷金を払ったことにしていると思われます)。こんな物件を買った場合、敷金はどうなるんだ、ということになります。裁判所の物権明細書(競売物件の資料として裁判所で公開しているもので、裁判所が権利関係について書いたもの)には、敷金について「不明(敷金(又は保証金)○○円の主張があるが,過大であるため,適正敷金額を考慮して売却基準価額が定められている。)」と記載してあったりします。こんな物件を買った場合、敷金の額をめぐって裁判をする覚悟が必要です。しかし、敷金の金額の裁判を担当するのは、競売するのとは別の裁判所(裁判部)になります。そのこため、その裁判所が「過大」と判断してくれるかどうか分かりません。そんなわけで、普通の人が手を出す物件ではありません。
もっとやっかいなのは、更新が可能な通常の賃借権がついている場合です。通常は、建物を建てると、その建物を担保に借り入れをして、そのお金で建設費用を支払って建設業者から建物の引渡を受けます。このため、建物の登記と同時に金融機関のために抵当権の設定の登記をします。そして、その後で、入居者を募ることになります。このため、抵当権設定の登記の前に賃借権がつくことは原則としてありません。
ところが、たまに抵当権設定の前に賃借権が設定されたという物件があります(怪しい場合もあります)。この場合は、競落しても、賃借権が優先します。賃借権は契約期間が満了しても契約が更新されるのが原則ですから、簡単には退去してもらえません。しかも、敷金が引き継がれるので、賃借人が退去する場合には敷金の返還をしなければなりません。敷金が引き継がれると言っても、実際にもとの所有者から敷金分のお金が入るわけではないので、借金だけを引き継ぐようなものです。
それでも、賃料額がまともなら賃料収入が得られるので、競落する価値があります(*1)。ところが、中には極端に賃料が安かったり、将来の賃料を一括前払いしていたり(そのように書いてある書類があるというだけで、真偽は不明です)、法外な敷金を払ったことになっているものがあります。
競売物件の資料として裁判所で公開している物件明細書を読むと、あまりにも極端な場合には、賃借権の権利自体を否定している場合もあります(ただし、これも競落した後で裁判になった場合、その権利関係を判断するのは、競売をした裁判所とは別の裁判所なので、物件明細書の記載のとおりの判断してくれるのか、保証の限りではありません)。
いずれにしても、すぐには退去させられない賃借人がいるかどうか、また、その権利の内容については、物件明細書や現況調査報告書に書いてあります。
しかし、執行官の調査後に、建物に入り込んで占有した占有者については、物件明細書にも現況調査報告書にも、書いてありません。これらは、競売で物件が買い受けらた後は、全く権利がないので、すぐに退去を求めることができます。出て行かなければ引渡命令をもらって強制的に出て行ってもらうことになります。
(*)怪しいけれど、賃料額が高いので収益物件としても有利だと思って競落したら、賃借人が「賃料が相場よりも高額なので、賃料を4分の1に減額する」という賃料減額請求をして、減額した賃料しか支払わないというケースがありました。しかし、賃料減額請求したからと言って、自動的に賃料が下がるわけではありません。裁判所が認めるまでは、賃借人は賃貸人の請求する金額の賃料を支払わなければなりません。このケースでは賃貸人(競落人)は、賃料不払いで解除して、賃借人を退去させました(家賃、地代の増額・減額請求や支払い額については、「家賃滞納の法律Q&A」の「賃料が高すぎと言って半分しか払ってくれません」や「借地の法律相談」の「地代の増額・減額請求」をご覧ください)。(▲本文に戻る)
●3点セットをよく読みましょう
先ほどから、物件明細書、現況調査報告書、評価書という言葉が出てきましたが、これは、裁判所に置いてある、競売物件の説明書です。3つの書類なので「3点セット」と呼ばれています。
このうち現況調査報告書は、先にも言いましたが、裁判所の執行官が現場に行って、占有者などに権利関係を確認したことが書いてあります。
単に占有者の言い分だけを聞くだけでなく、契約書などの証拠を出してもらいます。その上で、「これはおかしいんじゃないか」みたいな意見を書く場合もあります。
評価書は、不動産鑑定士が物件の評価をした結果が書いてあります。これは基準価格で、この2割を減額した価格(基準価格の8割)が最低売却価格になります。
基準価格では、競売物件というだけの理由で、標準的な評価額から減価します(東京地裁では2019年にそれまで3割減だった市場減価と競売減価を、それぞれ2割減にしました。基準価格よりも相当高額で売却できる例が多かったからです。翌年の2020年にコロナ禍になり、2023年現在、落ち着きを取り戻していますが、その後も減価は2割減です)。
この2~3割減というのは、競売物件という理由の減価です。通常よりもややこしい事情があり、買い受けた後でも面倒なことになるかも知れない、ということで、市場減価と競売減価の2つの減価をして、基準価格を決めます。
基準価格は、これよりも高い値段で入札しなさい、という価格で、減価してありますが、買い手にとっては何の意味もない場合もあります。逆に、基準価格では売れない物件もたまにはあります。つまり、実際にいくらで買うことができるかは、その物件次第です(他にも買いたい人が入札するので、他人がどう評価するのかが重要です)。
これはややこしそうだという物件は、買受人がつきにくいため入札価格が安くなります(基準価格は減額されませんが、占有者を排除するために費用がかかります。競落しようとする人は、その点を考えて入札価格を検討する必要があります) 。
物件明細書には、競落前の第三者の権利関係のうち、競落後に競落人が引き継ぐものかどうかが書いてあります(第三者から権利を主張されるかどうかが書いてあります)。
物件明細書の記載から、買受後に第三者に取られてしまうことが分かる場合には、買い受するのは危険過ぎます。
安く評価されているのは当然なので、安いのにもったいないと思うことはありません。
問題なのは、リスクがありそうだけど、物件明細書の記載からすると、第三者が権利を主張しても、裁判で勝てそうだと思える物件です。2000年代の初めころまでは、占有屋などが関与して、無茶苦茶な契約をしている例が沢山ありました。20年分の家賃を支払い済だとか、敷金相当額が6か月分程度が普通なのにそれを遙かに超える額の保証金(例えば1億円など)を支払い済みだとか、明らかに嘘くさいことが契約書に書いてある物件がありました。このようなものを認めたら、競売という制度がなり立たなくなるので、裁判所の物件明細書では、強気でこれを否定しました。
最近は、そこまでひどい例はあまりないと思いますが、それでも物件明細書をどこまで信用していいか、という問題があります。
物件明細書の記載は、裁判所全体の約束ではありません。競売を担当する部署の意見に過ぎません。このため、競売で買い受けた後で裁判になった場合、その裁判を担当する裁判官の判断を拘束しません。裁判を担当する部の裁判官も、これを尊重する傾向はありますが、別の判断をすることがないとは言えません。例えば、物件明細書に「第三者の権利主張は通らない」と書いてあったのに、後になって裁判所がそれを認めないという可能性もあるのです。こうしたリスクを考慮する必要があります。
しかも、最近の物件明細書の記載例を見ると、昔よりも断定的な表現ではなく、何かもやもやした表現になっているように思います(「最終的には自己責任です」というのは今も昔も変わらないのですが)。
色々なケースがありますから、裁判所で公開している三点セットの写しを持って、弁護士に相談することはいいことだと思います。
しかし、弁護士も、物件明細書などに記載されている内容やリスクの説明はしますが、買うかどうかの判断はご本人がすることです。リスクが高いので止めた方がいいと言うことはあります。
●占有屋
世の中には、占有屋と呼ばれる人たちがいます(現在では、「いました」と言う方が適切です)。
競売物件を占有して、競売を妨害したり、競売で買った人から立退料をもらうことを商売にしている人たちです。
怖い人もいると思いますが、あまり露骨なことはしません。どちらかと言うとややこしくさせるのが得意です。
物件を買った後で、裁判所に引渡命令を出してもらうことができますが、どこの誰が占有しているか分からないと裁判所は命令を出してくれません。また、命令が出ても、命令の相手方と違う人が占有している場合には、執行官は執行してくれません。
それを逆手にとって、複数の占有者が入り込み、複数を強調して沢山の看板をこれ見よがしに出したりします。
複数でもどこのだれか分かるならそれほど問題はありません。ところが「○○企画」とか「○○会社」などの看板はでていても、本店所在地や連絡先が書いないとやっかいです。その会社がどこの法務局で登記されているのか分からないと会社を相手方にして法的な手続を取ることができません。
かなり広い範囲で法務局に登記がないか確認を取ったけれども該当がなかったため、とりあえず、登記された会社ではないと判断して、代表者を名乗っている個人を「○○企画ことなんとか」みたいな形で手続を進めていたら、実際に登記された会社だと分かり(調査の範囲外の法務局で登記されていました)、手続をやり直したこともありました。
しかし、これも昔話になります。現在では、そんな苦労は必要ありません。国税庁の「法人番号公表サイト」で、法人名を入力すれば、日本国内のどこでも、特定の会社がどこの法務局で登記されているのかどうか、確認することができます。ただし、複数の同一名の会社が表示された場合には、該当するのがどの会社なのか、他の方法で確認する必要があります(ネットでホームページを確認するとある程度分かります)。
このように訳の分からないことをしていることからすると、この種の占有を職業にしていると思われました。同じ占有グループが、複数の物件を舞台に活動していることもあります。
それでも、一昔前と比べると占有屋による強制執行妨害はほとんどなくなったようです。手続が整備され、比較的短期間で退去させることができるようになりました。これでは、がんばって占有している意味がありません(商売が成り立たなくなったということです)。このため、比較的少ない金額で立ち退きに応じる者もいるようです(とは言え、下手に交渉をすると足下を見られるおそれがあります)。
競売物件を多数買い取っている会社などは、占有屋には一銭も払わないという姿勢です。少しでも払うと、あの会社は払うという評判が広がってしまいます。あの会社は絶対に立退料を払わないからがんばっても無駄だ、という評判が広がった方が結果的にはよいのです。
競売物件を買うのは一回限りだという個人の場合はどうかと言えば、一概には言えません。しかし、本当にそれだけで済むのか、ということは考えた方がいいです。
もっとも、これはあくまでも昔ながらの占有屋の話です。
最近は(と言っても10年ほど前の話ですが)、占有しているわけでもないのに、競売の買受人を騙したり脅したりしてお金を取ろうとする者がいます。
その手口ですが、競売物件に「管理しています。連絡先は・・・」という貼り紙が貼ってあります。そこに連絡したら、「もとの所有者から管理をまかされている者だ」と名乗ったので、15万円払ったら、鍵と委任状を送ってきたそうです。実際にその鍵で扉を開くことができたそうです。
ところが後になり、彼らは無権限で手当たり次第、貼り紙を貼って、鍵を替え、その鍵と偽造の委任状を送っていたことが分かりました。
これは完全な詐欺です。
最近(と言っても10年以上前ですが)でも、競売が行われた後で、何の権限もないのに買受人に対して、「もとの所有者から管理を任されているので、○○に連絡するように」と書いた手紙を送りつけるケースがあるそうです。
弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
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