定期借家契約は、契約期間の満了で契約が終了します。更新しません。再契約するかどうかは賃貸人次第です。契約書にそのことが書いてあることが必要ですが、その他にも必要な手続があります。形式的なものですが、軽く考えるのは危険です。それをしないと普通借家契約になり、期間満了でも終了しないで更新します。ここでは、定期借家契約の要件や終了の通知、再契約の時の注意など、定期借家契約について、弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。

【目次】
1.定期借家契約とその要件
 (1) 定期借家契約とは
 (2) 定期借家契約の要件
2.通常の借家契約から定期借家契約への切り換え
3.賃借人からの中途解約
4.期間満了の通知
5.再契約 
 (1) 再契約の方法
 (2) 再契約できる定期借家契約と再契約型定期借家契約
6.再契約してもらえません
7.要件を充たすのに期間満了後に立ち退いてくれません

1.定期借家契約とその要件

(1) 定期借家契約とは

 定期借家契約(定期建物賃貸借契約)とは、契約期間が満了したら、更新することなく終了する建物賃貸借契約です。通常の建物賃貸借契約は、家主に正当事由がないと更新して継続するのが原則ですが、定期借家契約の終了には、家主の正当事由は要求されません。

 しかし、定期借家契約を有効に成立させるためには、契約書に更新しないで期間満了で終了すると書いてあるだけでは足りません。契約前に書面でそのような契約だということを説明する必要があります。これをしないと、通常の建物の賃貸借契約になってしまいます。

 また、再契約によって契約を続けることができますが、再契約は、新しい別の定期借家契約になるので、手続や契約を改めて行う必要があります。

 定期借家契約のメリットは、家主側にとって、契約で決めた期間が満了すると確実に貸した建物を返してもらえることです。
 通常の建物賃貸借契約では、期間を2年と決めても正当事由がなければ賃貸人の側からは契約を終了させることができません。期間が満了しても、契約が更新するのが原則です。
 これに対して、契約で決めた期間が来たら更新しないで契約が終了するのが、定期建物賃貸借契約(定期借家契約)です。賃貸人側に事情があるために定期借家契約にする場合もありますが、法律上は理由はいりません。つまり、特に理由がなくても(あるいはどんな理由でも)、定期借家契約を結んで、期間満了で更新しないで契約を終わらせることができます。

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(2) 定期借家契約の要件

 単に「更新しない」ことを合意するだけでは有効な定期借家契約にはなりません(普通の借家契約になります)。有効な定期借家契約(更新しないで終了する契約)を成立させるためには、契約を結ぶ時に必要な手続を取ることが要件になっています。

● 定期借家契約の手続上の要件

 定期借家契約は
①書面で契約すること。
②契約書の文中に「契約の更新がなく、期間が満了すれば賃貸借契約は終了する」ことを明記すること
契約の前に、賃借人になろうとする人に対して、契約書とは別の文書に「これから結ぶ賃貸借契約は、期間が満了しても契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了する」ということを書いて、その書面を交付して、その内容を説明する。
ことによって成立します。

 転勤や建物の建て替え予定のために一時的に賃貸する場合などに利用できますが、定期借家契約を結ぶ目的に制限はありません(*1)

 契約するときに注意しなければならないのは、③です。契約の前に契約書の文案を渡して説明しただけでは、この要件を充たしません。契約書とは別の文書を渡して説明しなければなりません(最高裁平成24年9月13日判決)。
 また、説明は、上記③の程度の説明で足ります。その説明で賃借人がどこまで理解したのかは関係ありません(上記最高裁判決)。
 なお、要件を充たさない契約をして建物を貸してしまった場合は、通常の建物賃貸借契約になります。期限が来ても正当事由がなければ賃貸人の側から契約を終わらせることができなくなります。(*2)

(*1) 一般の定期借家とは別に、借地借家法39条に、「取り壊し予定の建物の賃貸借」という規定があり、「建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めることができる」となっています。この場合は、定期借家契約の事前説明が不要で終了通知も不要ですが、それ以外の要件がややこしい上に、いつが「建物を取り壊すこととなる時」なのかあいまいです。この規定を使うよりも一般の定期借家契約を使った方が、要件が簡単な上に契約の終了時期も明確です。建物の取り壊しよりも相当前に、定期借家契約の終了時期が来ても、再契約すれば足ります(再契約の期間は前の契約の期間と同じにする必要はありません)。つまり、特別な事情のない限り一般の定期借家契約を結んだ方がいいと思います。(本文に戻る


(*2) 要件を充たさない契約を結んだ場合、契約の中の「更新がなく、期間が満了すれば賃貸借契約は終了する」という部分だけが無効になります。つまり、賃料その他の条件は、そのままで普通の建物賃貸借契約になります。通常、定期借家契約は、賃料額が、普通借家契約よりも安いと考えられます。つまり、要件を充たさないと、安い賃料額で普通借家契約を結んだことになります。この場合、契約を結ぶ時にミスがあったことを理由に、賃料の増額を請求することはできません。

● 証拠を残しましょう

 後で問題にならないように、③の手続をしたという証拠を残す必要があります。
 一般的には、③の説明書を2部作り、1部はそのまま賃借人になる人に渡して説明をし、もう1部には、説明の文章の後に「契約の前にこの書面を受領し、これから結ぶ建物賃貸借契約は、期間が満了すると更新せず、期間満了とともに賃貸借契約が終了して、建物を明け渡さなければならないという説明を受けました」という趣旨の文章を書いておき(簡単に言うと、「説明書を受け取り、説明を受けました」という内容が1枚の紙に書いてある書面です)、その文章の後に賃借人になる人に署名と判子をもらい、その書面を返してもらって、保管しておきます。
 この書面は後日、③の手続をしたことが争われた場合に、③の手続をしたことの証拠になります。

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2. 通常の建物賃貸借契約から定期借家契約への切り換え

【相談】現在、建物の一室を人に貸しています。しかし、建物が古くなったので建物の建て替えを計画しています。もうすぐ契約の更新になるので、その時に普通の賃貸借契約から、定期借家契約に切り換えてもらおうと思いますが、問題はありますか。

【解答】現在の賃借人との契約関係が不明ですが、その契約が平成12年2月29日以前に契約を締結した居住用建物の借家契約の場合には、賃借人が同意しても切り換えは認められません(更新が繰り返されていても、最初の契約時期のことです)。
 つまり、定期借家の契約をしたとしても、それは無効です。通常の賃貸借契約のままです。
 平成12年3月1日以後の居住用建物や、契約時期にかかわらず事業用の建物の場合は、賃借人の同意があれば通常の賃貸借契約から定期借家契約への切り換えが可能です。

  ただし、この契約の切り換えは賃借人にとって不利な契約への切り換えになります。そのため、何の見返りもなしに普通借家契約から定期借家契約に切り換えてくれと言っても、応じてくれません。
 切り換え後の賃料を安くするなど、賃借人も有利になることと引き換えに定期借家契約に切り換えるなどの配慮が必要です(配慮した上できちんと手続を取る必要があります)。

 なお、契約の切り換えと言っても、法律上は、それまでの普通の建物賃貸借契約を合意解除して、改めて定期借家契約を結ぶことになります。この点も注意する必要があります。単に定期借家契約の契約書を交わすだけでなく、それ以前の普通借家契約を合意解除するという書面も作った方がいいと思います(絶対に必要というわけではありません)。(*1)(*2)

(*1)普通借家契約から定期借家契約に切り換える場合、普通借家契約の期間の満了が近づき、更新の話をする時に、この話をすることが多いようです。普通借家から定期借家への切り換えは、更新ではないので、更新料は発生しません。間違えて更新料の受領をすると、後でややこしいことになる可能性があります。

(*2)通常の更新の場合、不動産の管理会社から、賃借人に更新の契約書など一式を郵送して、署名押印して送り返してもらう、ということが普通に行われています。このため、同じことを普通借家契約から定期借家契約に切り換えるときにやってしまうことがあるようです。この場合、契約の前に契約書とは別の文書を交付して、これから結ぶ契約が定期借家契約だと説明する、という手続が行われたと言えません。

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3. 賃借人からの中途解約

【相談】5年間の定期借家契約を締結して建物を借りて住んでいます。2年が経過しましたが突然、地方への転勤になりました。家族がいるわけでもないので解約したいのですが、定期借家契約だから解約はできないと言われました。解約はできないのでしょうか。

【回答】まず、契約書の中に「契約期間中でも賃借人の申し入れによって解約できる」という条項があれば、その条項によって解約できます
 そのような条項がない場合ですが、ご質問からすると居住用ということで建物を借りていると思います。その場合、その建物(借りている部分)の床面積が200平方メートル未満の場合には、解約の申し入れをするとができ、申し入れから1か月をすると契約は終了します(つまり、解約申入から1か月分の賃料は支払わなければなりません)。

● 中途解約条項がないと中途解約できないのが原則です

 期間の定めのある賃貸借契約は、中途解約ができるという条項がない限り、賃借人からも期間中の解約ができないのが原則です。
 賃貸人の側も、一定の期間は賃借人から賃料を払ってもらいたいという希望があります。このように賃借人側の解約を制限する場合にも、定期借家契約は利用されています。

 ただし、中途解約できない、というのは、定期借家契約に限る話ではありません。期間の定めのある賃貸借契約すべてに言えることとです。
 また、定期借家契約でも期間の定めのある契約でも、賃借人の途中解約を認める特約のある場合があります。このような特約があれば、中途解約できます。

● 居住用の場合には中途解約できる場合があります

 中途解約できないと、賃借人に酷な場合があります。そこで法律では
①事業用に借りているのではなく、居住用に借りていること
②床面積が200平方メートル未満の建物(賃借している部分のことです)
③転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき
という条件を充たす場合には、賃借人は解約申入ができ、解約申入から1か月が経過すると賃貸借契約は終了することになります。
 契約書に「どんな事情があっても賃借人は途中解約できない」という条項があったとしても、その条項は無効です。(*1)

(*1) 裁判になった場合「やむを得ない事情」がどこまで厳格に解釈されるのかは何とも言えません。物件から近い場所に転居する場合には「やむを得ない事情」があったとはなりませんが、他の地方に転居する場合には、それなりの事情があったと推定されます。法律では「その他」の事情も含まれている上、居住用の場合だけですから、ある程度ゆるやかに解釈される可能性があります。
 定期借家の本来の目的は、期間が満了したら返してもらえることです。居住用の場合には、中途解約には固執しないで、退去までの期間を1か月よりも延ばした方が有利です。ただし、法律の上記の規定を賃借人に不利に変更しても無効です。そこで、法律の上記の規定に加えて、「3か月前に告知すれば(無条件で)中途解約できる」(3か月に限りませんが)という条項を入れると、賃借人もこちらの条項を使う可能性が高いと思います。2023.12月追記

● 違約金条項が一部無効になった例もあります

 途中解約ができるのは、上記の場合ですから、事業用に借りている場合や、居住用に借りている場合でも建物が200平方メートル以上の場合や、やむを得ない事情がない場合には、中途解約条項がない限り、賃借人は期限まで借り、賃料の支払いをしなければならないことになります。(*1)

 一応これが原則ですが、途中解約の場合に残りの期間の賃料(または、賃料相当の違約金)を支払うという契約がどこまで有効なのかは別の問題になります。

 例えば、期間4年の契約なのに10か月で途中解約した事例(事業用です) で、残りの期間の3年2か月分の賃料相当の違約金を支払うことになっていた場合に、解約から1年分の違約金までを有効として、それを越える部分の違約金条項を無効とした裁判例があります(東京地裁平成8年8月22日判決)。これも事案によりけりで、この判決のようになるのか一概には言えません。
 特にこの判決は、家主が新しい入居者に物件を貸すのに1年程度あれば十分可能なのに、3年2か月分の賃料相当の違約金を取るのは暴利行為(利益の取り過ぎ)としています。このため、家主が新しい賃借人を探すのに相当な時間がかかると予想される場合(例えば、学習塾など特殊な場合)には、違約金の減額は認められないことになります。
 また、10か月しか借りていないのに、3年2か月分の違約金を取られるのは、賃借人が気の毒という面もあります。そのため、例えば、2年の契約で1年入居して退去する場合に、残り1年分の違約金を取られる場合には、賃貸人側ですぐに入居者を見つけられる場合でも、その程度の違約金は仕方がない、とされると思います。


(*1) 違約金の条項がない場合には、中途解約自体ができないので、満期まで賃料を支払う義務があります。退去しても賃料の支払い義務が残ります。ところが退去後に家主が、新しい人に物件を貸すと、もとの賃借人は物件の使用ができなくなります。そのため、以後は賃料支払い義務がなくなります(このことを認める裁判例もあります)。
 これに対して、期間途中で退去した場合には違約金を支払うという条項を定めた場合(残りの期間の賃料相当の違約金を支払うという違約金条項は普通にあります)には、退去後に新しい人が入居した場合でも、契約で決めた違約金を支払う義務があります。つまり、家主側にとって、違約金条項を定めた方が有利です。賃借人も違約金の額が暴利行為(無効になります)かどうか争うことができる場合もあるので、双方にとって有利だと思います。(▲本文に戻る)2023.12月追記

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4. 期間満了(終了)の通知

【相談】2年の期間の定期借家契約で建物を貸していますが、「期間満了によって契約が終了する」という通知を賃借人に出さないまま期間満了になりました。この場合はどうなりますか。

【回答】期間が満了しても、定期借家契約の終了を賃借人に対抗することはできません。しかし、期間満了後、数か月程度しか経っていない場合なら、「期間が満了したので契約は終了します」という通知を出して、6か月が経過すれば、契約の終了を賃借人に対抗できまる、という裁判例があります。

●期間満了(終了)の通知とは

 法律では「期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6月前までの間に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない」としています (*1) 。ご相談の事案は、期間2年の契約ですから、満了の1年前から6か月前までに上記の通知を賃借人に出す必要がありました。


(*1)「対抗できない」というのは、「賃借人に対して、契約が終了したことを主張できない」という意味です。当然、それまでは明け渡しの請求はできません。しかし、通知がなくても、賃借人側は、期間満了で契約が終了したと主張することができます。(▲本文へ戻る

● 満了の6か月前までに通知を出さなかった場合

 期間満了の6か月前までに通知を出さなかった場合ですが、3か月前になって上記の通知を出した場合には、期間の満了の日には契約が終了したことを賃貸人に主張できませんが、通知を出した日から6か月後(期間満了から3か月後)に契約の終了を主張できます。

● 通知を出さないまま満了した場合

  問題は、ご質問のように通知をださないまま、期間が満了した場合です。
 期間後でも通知を出せば、通知から6か月が経過すると契約は終了したと主張できるという裁判例があります(東京地裁平成21年 3月19日判決など)。

 ただし、これらは、期間満了後1か月から4か月後に通知を出した事案です。
 もしも、期間満了までに通知を出さず、その後も、賃料を受領しながら契約終了の通知も出さず、1年も経ってからようやく通知を出したような場合は問題です。定期借家契約から通常の賃貸借契約に切り換えることに合意した(暗黙の合意をした)と裁判所に判断される可能性があります(暗黙の合意で、通常の賃貸借契約を結んだと判断された事例としては、東京地裁平成27年 2月24日判決。ただし、3年間何もしないで賃料を受領していた事例) 。

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5.再契約

(1) 再契約の方法

【相談】定期借家契約を締結して建物を貸していますが、期間満了後、再び同じ賃借人と同じ条件で定期借家契約を結ぶことは可能ですか。

【回答】定期借家契約には、更新というものがありませんが、同じ当事者間で改めて同じ契約を結ぶことは可能です。

 再契約は、賃貸人、賃借人の双方が合意していることが前提です。賃借人側が再契約したいと思っても、賃貸人が拒否すれば、再契約はできません。この時、賃料その他の条件も、賃貸人の意向次第です。
 再契約の手続ですが、再契約は、もう一度、定期借家契約を結ぶ必要があります。定期借家契約のために必要な手続を、もう一度、やらなければならない、ということでする。つまり、①契約書の中で期間満了後は更新しないで契約が終了することが書いてあること、②契約の前に、期間満了後は更新しないで契約が終了することを書いた文書(契約書とは別の文書)を交付して説明すること、という手続を取る必要があります。

 最初の契約の時に説明したからと言って、②の手続を省略すると、普通の賃貸借契約になってしまいます(*1) (*2)

 再契約の賃料ですが、前の契約の賃料には拘束されません。前の契約の賃料と同額にしてもいいし、当事者間の交渉で、増額しても減額してもかまいません。賃料額を増額することを賃借人側に提示し、賃借人がこれを拒否したら、再契約自体をしない、ということも可能です。


(*1)再契約を何度も繰り返すケースもあります。何度も同じことをしているから、賃借人は十分に分かっている、もう説明しなくてもいいんじゃないかと思ってはいけません。最高裁平成24年9月13日判決は、賃借人が定期借家契約について十分に理解していたとしても、契約前に説明書を交付して説明する手続をしない場合、普通借家契約になると言っています。この事案は、法律や手続をよく知っている不動産業者間の取引でした。(▲本文へ戻る


(*2) 法律の条文では「書面を交付して説明しなければならない 」となっていますが、 最初の契約の時に説明をしているのだから、 再契約の時は、 書面を交付するだけでいいのではないか、という問題があります。そして、最初の契約の時は、書面を交付した上で、口で説明する必要があるが、2回目以降は、説明を書いてある書面を交付する(郵送など)だけでも要件を充たしているとした裁判例があります(東京地裁平成28年 6月28日判決)。しかし、上記の平成24年の最高裁判決は、賃借人が定期借家契約だと理解していたかどうかよりも、書面を交付して説明したという形式を取るかどうかで、要件を充たしたかどうかが決まるとしています。ですから、郵送で済ませるのは危険だと思った方がいいです。(▲本文へ戻る

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(2) 再契約できる定期借家契約と再契約型定期借家契約

 「当事者が合意すれば再契約ができる」という条項が入った定期借家の契約書を見かけます。当事者双方が合意すれば再契約できるのは当然なので、このような条項は意味がありません。かえって有害な場合があります。

 問題になるのは、例えば、契約書に「賃借人に契約違反がない場合には、期間満了後に再契約します」という条項を入れる場合です。 契約した後なら、「終了後に再契約します」と言うのは問題ありません。 しかし、 契約を結ぶ時点で、再契約を約束するのは問題です。 契約書と別の「覚書」という書面で約束する場合もありますが、その場合も同じです。

 このような契約を「再契約型定期借家契約」と名付けて、推奨している業者がいますが、これは、実質的には「更新できないと言いながら、更新できるのと同じ意味の契約を結んだ」と言うことで、定期借家契約を否定される(普通借家契約になる)可能性があります。

  「更新ではなく、あくまでも再契約」だとしても、「賃借人に契約違反がない」場合には賃貸人に再契約する義務が発生する可能性があります(条項の書き方によるので微妙ですが)。その場合、賃借人の意思で予約が実行される「再契約の予約契約」を結んだことになります。そのような形で予約が実行された場合、定期借家契約に必要な手続を取らないで再契約が結ばれたことになるので、結局、普通借家契約になります。

 「賃借人に契約違反がある場合に、期間満了で契約終了するのが利点だ」という説明がされていますが、重大な契約違反があれば期間中でも解除できるのが原則です。軽微な契約違反や、単なる感情的なもつれを理由に、賃貸人が再契約を拒否した場合、定期借家契約の有効性(有効性が否定されると普通借家契約になります)を巡ってトラブルが起こります。(*1)

(*1) 「騒音などで問題がない限り、再契約できます」と不動産会社が説明しておきながら、その書面を交付せず、期間が満了した時に「そんな話はしていない。ただの定期借家契約だ」と言われたという話を聞きました(比較的大手の不動産会社でした)。最近は再契約型定期借家契約について、弁護士のホームページなどでその有効性に問題があることが指摘されていることと関係あると思います。書面を残さなければ嘘をついた証拠もないと思っていても、最近は会話の録音が簡単にできます。発覚したら大変なことになります。

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6. 再契約してもらえません

【相談】借りている側ですが、飲食店経営のために定期借家契約を結び、何回も再契約を繰り返していたのに、今度は再契約しないと言われました。経営が順調ですし、内装費もかけているのでこのまま経営を続けたいのですが何とかならないでしょうか。 

【回答】原則としては、定期借家契約の要件を充たしていて、終了通知も受領している場合には、期間満了で契約は終了するので、退去するしかありません。過去に再契約したとしても、再契約は、賃貸人、賃借人双方が同意しないとできません。賃貸人が再契約をしない理由は問題になりません。つまり、再契約しない合理的な理由がない場合でも、再契約を要求する権利はありません。

 ただし、ご相談のケースは、何回も再契約を繰り返しているとのことですが、もしも、その中で一度でも、定期借家契約の要件を充たさないで契約した場合、その契約の期間満了後に要件を充たす定期借家契約の再契約をしたとしても、契約は終了しないで更新します

  どういうことかと言うと、再契約を繰り返している中に一度でも要件を充たさない契約をした場合、その契約は普通借家契約になります。そのことに気がつかなくて、期間満了後にまた定期借家契約の再契約をした場合でも、普通借家契約が成立したことを知って普通借家契約を合意解除しない限り、一旦成立した普通借家契約が続くことになります。後で結んだ定期借家契約は無効か、普通借家契約の更新契約とみなされます(東京地裁平成27年 2月24日判決)。(*1)

 可能性があるとすれば、何回も再契約を繰り返しているうちに、契約締結前の書面による説明をしなかったケースが考えられます。
 前の契約の時に説明したから、もう十分に分かっているだろうと考えて、再契約の手続が形式的になると、このような要件の不備が起こる可能性があります。書面による事前説明は、賃借人側で定期借家契約の意味を理解しているかどうかに関係なく、絶対的に要求される要件です(最高裁平成24年9月13日判決)。

  ただし、過去の契約の時に、事前に説明書の交付がなかったと賃借人が言っていても、賃借人の記憶だけでは不安が残ります。このため、立退を拒否したり裁判を起こす前に確認する必要があります(*2)。「絶対にそんな書面を受け取ったことはない。もらっていれば契約書と一緒に保管してあるはずだが保管していない」と言うので、賃貸人側に確認したら、これ見よがし「書面を受け取り、説明を受けました」という賃借人の署名の入った書面のコピーを送られたことがありました。これが普通の対応です。一般的には、裁判の前に証拠を見せてくれと言っても拒否されますが、上記の証拠は絶対的に賃貸人に有利な証拠なので、勝ち誇ったようにコピーを見せるのが普通の対応です(そのために、このような証拠を残しておくのです)。それなのに、出し渋る場合は、証拠を持っていない、つまり、説明書の交付をしなかった可能性があります(裁判を起こす場合には何回も確認して、判断します)。

 説明書を交付しなかった場合だけでなく、それ以外の理由で普通借家契約が成立したと認められることもあります。
 東京地裁平成27年2月24日判決のケースは、定期借家契約の満了から、次の再契約まで数年間経過してしまい、その間に(その間も家賃を払って使用を続けていました)、契約書は交わしていないけれども、普通借家契約が成立したとみなされたというケースです(もう少し色々な事情がありました) 。このように、要件不備以外の理由で普通借家契約が成立したと認められる可能性もあります。

 ただし、仮に、普通借家契約の成立が認められた場合でも、家主側が再契約を拒否した理由が、老朽化したビルの建て替えのためなど、ある程度の正当事由が認められる場合もあります。その場合には、手続に問題があったとは言え、賃借人は、一応、定期借家契約を結んで期間満了での明渡を約束しているため、立退料なしで正当事由による契約の終了が認められることもあり得る(結果的に、定期借家契約を争っても無駄になる)ことを示唆する解説もあります(上記平成24年の最高裁判決の解説)。しかし、この点についての裁判例はありません。契約期間を決めるのは普通借家契約でも同じです。そして、定期借家契約の手続違反で普通借家契約になることは法律に明記されていますから、普通借家契約と同額の立退料は支払われるべきだと思います。

 なお、上記の平成24年の最高裁判決の後は、賃貸人側も要件(手続)については慎重になっていると思います。飲食店のように移転が容易でない事業に定期借家契約を利用するのは、賃料が安いとか、エリアによっては定期借家しか結べないなどの事情があるとは言え、それなりの覚悟が必要です。

(*1) 手続上のミスで普通借家契約が成立した場合、ミスをした方の賃貸人側は、そのことに気付きません(気付かないからミスをするのです)。手続をするのは賃貸人ですから、賃借人もそのことに気付きません。そして、その時に交わされる契約書は定期借家契約の契約書です。このため、時間が経っても、双方ともに、普通借家契約になったことに気付きません。そして、普通借家契約になったのに、定期借家契約を締結したと思って、期間満了後に定期借家契約を結びます。この時、手続上のミスがなく、定期借家契約を締結したとしても、前の普通借家契約を合意解除しない限り、普通借家契約が続きます。ただし、賃借人が、普通借家契約が成立したことを知った上で、定期借家契約を締結した場合には、その段階で普通借家契約を合意解除して定期借家契約を結んだことになります。(▲本文へ戻る

(*2) 通常は期間満了後に賃貸人側から建物明け渡しの裁判を起こしますが、賃借人側から、期間満了前に、普通借家契約が成立していることの確認を求める裁判を起こすことができます(正確には、更新排除特約の無効確認の裁判です)。早期に解決して安心して営業を続けるためには、賃借人側から裁判を起こした方が有益です。ただし、裁判を起こしても、賃貸人が「書面を受け取り、説明を受けました」という賃借人の署名入りの書面を証拠に出せば、賃貸人側の勝訴で終わります。つまり、事前に賃貸人に証拠があるかどうか確認しないとおそろしくて裁判は起こせません。この点は、裁判を起こさないで期間満了を待つ場合でも同じです。賃貸人が証拠を持っているかどうかを確認しないと、何の準備もしていないのに、判決で立ち退かなければならないことになります。( ▲本文へ戻る

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7. 要件を充たすのに期間満了後に立ち退いてくれません

【相談】要件を充たす定期借家契約を結び、期間満了の6か月前までに「期間満了により賃貸借契約が終了する」という通知を出したのに、期間が満了しても、建物から退去してくれません。どうしたらいいのでしょうか。

【回答】契約違反は間違いないのですが、話してだめなら、裁判を起こすなどしなければいけません。

 裁判など起こしたくないなどと思って、ずるずる期間満了後も賃料を受け取るなどして黙っていると、期間満了後に普通の賃貸借契約を結んだとみなされてしまうこともあります。

 また、穏便に済ませようとして、弁護士に依頼しないで相手方と合意を交わすのも考えものです。契約終了を前提に、明け渡しの猶予期間をもうけて建物の明け渡しを約束させるという合意を成立させるのはいいのですが、合意の条項を間違うと、普通借家契約になってしまう場合があります。根負けして、再度、定期借家契約を締結する場合もあるかも知れませんが、次の期間満了の時に、同じ問題が起こる可能性があります。

 相手方が平然と契約違反をしている場合には、毅然とした態度で臨むのが解決の早道です。

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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391