遺産分割では、遺産の評価額が問題になります。特に問題になるのが、不動産の評価額です。借地権も、それ自体、価値のある不動産と言えます。そのため、その評価が問題になります。
どういう形で、評価が問題になるのかと言うと、自分がほしいと思っている遺産はできるだけ安く評価され、他人が取る遺産はできるだけ高く評価されると、それだけ有利になる、ということです。こう言うと、安いものが安く評価されるのは当然で、全然、有利にも不利にもならないじゃないかと思えます。ところが、不動産や借地権の評価額はあいまいです。いくつも評価の方法があります。
そして、評価の方法が変わると、同じ財産なのに、高くなったり安くなったりします。自分が取りたい財産が決まっているなら、それが安く評価されれば、他の相続人に支払う代償金の額が少なくなったり、他の遺産(例えば預金)を多くもらえることになります。
遺産の評価は、共同相続人で同意して決まれば、それが評価額になります。自分だけ都合のいいことを言っても、他の相続人から同意してもらえません。ここでは、借地や底地の基本的な評価のルールを弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。
※相続の基礎知識や相続・遺産分割一般については、「相続・弁護士による法律相談」をご覧ください。
【目次】
1.借地権の評価方法
2.特別な場合には借地権割合が変わります
3.一般的な底地の評価方法
4.底地権者と借地権者が特殊な関係にある底地の評価
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1.借地権の評価方法
借地権の価格は、土地の更地価格(借地権がついてない場合の価格)に、借地権割合を掛けたものになります。
つまり、更地価格と借地権割合が分かれば、計算で出せることになります。
では、どうやって更地価格を出すのか。いくつか方法がありますが、簡単な評価方法は、相続税路線価図を使う方法です。
相続税路線価図では、土地が接する道路ごとに、1㎡あたりの土地の評価額が書いてあります(1000円単位です)。土地の形が特にいびつでなければ、この金額に土地の面積をかけると、土地の価格がでます。
ただし、相続税路線価は、公示価格の8割になるように設定されています。そこで、この価格を0.8で割り戻す(0.8で割るという意味です。1.25倍しても同じ数字がでます)と、その土地の公示価格が出ることになります。
借地権の価格は、このように出した更地の価格に、相続税路線価図に書いてある借地権割合を掛けたものになります。
これが借地権の評価額になります。(*1)
土地の形がいびつな場合や、土地の奥行きがある場合(道路に面している部分に対して、細長い形になっている場合)、角地(2つの道路に接する土地)の場合などは、単純に1㎡あたりの路線価に面積を掛けた価格ではありません。ただし、これらの場合も、計算方法が決まっています。
この方法は、比較的、普通に使われている方法ですが、当事者が同意しなければこの方法で評価することはできません。
例えば、更地価格をどう評価するのかで揉めることがあります。相続税路線価で計算した土地の価格を1.25倍する(0.8で割り戻す)と公示価格になるという建前ですが、近隣に公示価格が公表されている土地がある場合に、このような計算で出したものと比較すると、計算どおりではない場合があります。また、原則は取引価格で分割することになりますが、実際の取引価格は、当該売主と買主の思惑が一致して決めるため、それが正しい取引価格だとは言えません。また、遺産になっている不動産の取引価格ではありません。遺産の取引価格は、周辺の取引事例を調べて、それを実際の物件と比較して、相違点を修正して算定することになります。しかし、取引事例の収集や修正の仕方によって、金額に大きな差がでることがあります。
また、借地上の建物がアパートなどの賃貸用物件(収益物件)の場合には、もっと複雑な話になります。(*2)
そこで、不動産業者の査定書を双方が出すことがありますが、双方で違う数字になったり、同じ人が複数の業者に査定を頼んでも業者ごとに1000万円単位で数字が違うこともあります(業者も売ってみなければいくらで売れるのか分からない場合が多いのです)。色々出てきた数字の中から当事者が話し合い、それで合意すればいいのですが、それでもだめなら、調停申立をして、家庭裁判所が選んだ不動産鑑定士の鑑定で決めるしかありません。(*3)
つまり、遺産分割では、借地権を含めた不動産の価格は、当事者が合意しなければ、家庭裁判所が選んだ不動産鑑定士の鑑定で決めるのが原則です。
なお、「借地権割合」は通常は相続税路線価図に書いてある借地権割合を使って計算しますが、相続税路線価の借地権割合は、相続税のための遺産の評価のための数字です。正しい借地権割合は、不動産鑑定士が算定する建前です。ただし、不動産鑑定士も通常は、相続税路線価の借地権割合をそのまま使うことが多いようです(地主と借地権者が特殊な関係にある場合は例外です。後でお話します)。
(*1)価格は、普通、「売る時の価格」をいいます。借地権の場合、地主に承諾料を払って第三者に売ることになります。つまり、承諾料を引いたものが売主の取り分になります。この場合の承諾料は、借地権価格の1割が相場とされています。このため、「更地価格×借地権割合」からさらにその1割を引いたものが、借地権の価格じゃないのか、という疑問が起こります。しかし、承諾料の問題は売る時に発生し、遺産分割の時には発生しません。このため、遺産分割調停などで借地権の価格評価をする時には、承諾料を引く扱いはしません。(▲本文へ戻る)
(*2) 単純に考えると、土地(借地)の価格+建物の価格でいいのではないかと思いますが(住居などはそのように算定します)、収益物件の場合は、その土地上の建物からどれだけの収益が見込まれるかという評価方法も取り入れて算定します。この算定方法は土地(借地)と建物を一体として評価します(一体として評価した価格を、後で借地と建物に振り分けます)が、この計算だけだと高くなり過ぎる場合があるので、これと借地の価格+建物の価格で評価したものと調整して評価します(2つの価格を足して2で割った価格にしたりして調整します)。ただし、収益物件と言っても、古くなっていて、建て替えた方がいい場合もあります(手に入れた相続人が、建て替える場合です)。その場合は、借地権価格から建物取り壊しなどの費用を引いたものが評価額になります。(▲本文へ戻る)
(*3)更地価格でも不動産鑑定士によって評価に違いがでます。その上、収益物件の評価や借地権割合の評価などは不動産鑑定士によって更に大きな違いが出るように思います。しかし、東京家庭裁判所では、裁判所が選んだ不動産鑑定士の鑑定の結果に文句を言わないという前提で手続が進められます。(▲本文へ戻る)
2.特別な場合には借地権割合が変わります
借地権割合(更地価格に対する割合)は、通常は、相続税路線価図に書いてある借地権割合を使います。
しかし、土地の所有者(底地権者)と借地権者が特別な関係にある場合には、相続税路線価の借地権割合よりも、借地権割合が低くなる場合があります。
例えば、子が所有する土地の上に、母が建物を建てて子に地代を払っている場合です(こんなことが起こるのは、父が亡くなった時に子が土地を相続して、母が土地上の建物を相続した場合や、母がお金を相続して土地上に家を建てたような場合です)(*1)。この状態で、母が亡くなった場合には、遺産になった母の借地の借地権割合が問題になります。
このような場合は、母が地代を払っていても、母と子という関係から、子から土地を返してほしいと言われると、返してくれた可能性があったと考えられます。つまり、通常の借地権よりも、権利が弱いと考えます。このため、例えば、通常なら借地権割合が更地の7割なのに、更地価格の4~5割程度に評価されることがあります。
また、地代が極端に低い場合などには(親子の関係では地代を払っていてもごく形式的な場合があります)、実質的には借地権ではなくて使用貸借(無償の土地の貸し借り)だと評価され、更地価格の2割程度にしか評価されない場合もあります。
(*1)こんなややこしいことをするのは、税金対策です。父・母、子2名の家族がいて、父が亡くなった場合、まだ母が元気なので、遺産分割でもめないことが多いのです。このような場合、とりあえず、相続税を安くすることを最優先に考えて、ややこしい遺産分割をすることがあります。やりすぎて、母が亡くなって子2名が遺産分割する時に非常に面倒なことになることがあります。特に、もめた時にやっかいなことになります。(▲本文へ戻る)
3.一般的な底地の評価方法
「底地」というのは、借地権がついている土地所有権のことです。この評価額が問題になるのは、借地権者ではなくて、土地所有者側で相続が発生した場合です。
底地の価格は、単純に言えば、更地の評価額から、借地権価格を引いたものです。「更地価格×(1-借地権割合)」でも、同じことです。
借地権価格が6割なら、更地の4割が底地の価格になります。
ただし、第三者に底地を売ることを考えた場合、更地価格の4割で売れるものではありません。更地価格の1割でも売れるかどうかというところです(底地を専門的に取り扱っている業者に聞いた話では、2023年時点で、借地権価格の1割5分程度が仕入値とのことです)。
ところが、借地権者が底地を買う場合には、更地の4割の価格で売買されることが多いのです(借地権者も底地権者も、互いに売ったり買ったりする義務があるわけではないので、価格は交渉次第になります。しかし、売買価格の目処は、「更地価格-借地権価格」になります)。なぜ、借地権者が買う場合に底地の値段が高くなるのかと言うと、買うことによって完全な所有権になるからです。借地権者の立場からすると、6割だった権利が、10割の権利になります。従って、その差額の4割が底地の価格になります。
このように誰が買うのかによって底地の価格は違ってきます。
では、遺産分割の場合はどうなるのか?というと、通常は、地代額をもとにその土地からどれだけの収益が得られるのか、ということで計算します(鑑定をやると、更地価格から借地権価格を引いた金額になる場合もあります)。
ただし、これは相続人と全く関係ない第三者が借地権者の場合です。借地権者が相続人の場合や、相続人が経営する会社の場合、被相続人が経営する会社でその会社の株式が相続の対象になっている場合などは、評価方法が変わります(次の「底地権者と借地権者が特殊な関係にある底地の評価」をご覧ください)。
4.底地権者と借地権者が特殊な関係にある底地の評価
・借地権割合が低くなれば、底地の評価が上がります
底地権者と借地権者が特別な関係にある場合には、借地権が通常よりも低く評価される場合があることは、前にお話したとおりです。借地権が低く評価される場合には、底地権が高く評価されることになります。
例えば、借地権割合が、通常なら7割なのに5割と評価されれば、底地の価格は更地の5割になります。借地権が実質的には使用貸借だということで、更地価格の2割にしか評価されなければ、底地は、更地価格の8割に評価されることになります。
・特別受益が問題になるケースもあります
このようなケースの中には、親(被相続人)の土地を、子(共同相続人の一人)が借りて自分の名義で家を建てて住んでいるというケースがあります。このような場合、子が相当額の権利金(借地権価格相当の権利金)を親に払うことはあり得ません。そこで、借地権割合が低く評価されます。
例えば地代が実際には支払われていないため借地ではなくて使用貸借だとみなされると子の権利は更地価格の2割程度の権利を持っていると評価されます。
しかし、この2割の権利は親からもらったものです。これは、特別受益に当たります。このため、遺産になる土地の価格は2割減額して8割になりますが、家を建てている子は、2割相当の特別受益を受けたことになり、その持戻をして(土地更地価格の2割分を遺産に戻す)、結果的に遺産の土地は更地の10割評価になるという処理が取られます。
・親族の会社が借地権者の場合
底地権を相続する場合に、親族の経営する会社が借地権者になっている場合があります。
ありがちなのが、被相続人が、生前、自分の土地の上に、自分が経営する会社名義で建物を建てて、会社に土地を使わせていた場合です(多くの場合、税金対策ですが、それだけではありません)。
このような場合、会社が税務署に「地主から請求があればただで土地を返します」という届出をすることがあります(これを「無償返還の届出」といいます)。これを出さないと借地権を設定したことについて会社が税金を取られます。そこで、税金対策のため、このような届出をするのです。
この届出をすると、実質的には使用貸借だということで、会社の借地権は更地価格の2割程度に評価されます。その結果、底地の評価額は、更地の8割になります。この底地の評価額は、土地を所有している個人が亡くなった場合の相続税の評価基準になりますが、それだけでなく、遺産分割をするときの評価の基準にもなります。
ただし、この評価は、底地の相続人のうち誰が会社を支配しているか(誰が会社の株式の過半数を持っているか)によって、有利不利の問題が起こります。Aが会社を支配している場合にAが底地を相続すれば、実質的にはAが100%の土地の所有者になります。ところが、Bが底地を相続すると、通常の底地よりも髙く評価されるのに、安い地代が入るだけです(*1)。家庭裁判所の調停や審判では、Bが希望しない限り、Aがこの土地を相続することになります。この場合、Bは他の財産を相続するか、代償金をもらうことになります。
(*1) 会社が税務署に無償返還届けを出した場合でも、会社は法律上、Bに土地を返す義務はありません。つまり、Bが土地を返してくれと言っても、会社は応じなくてもいいのです。(▲本文へ戻る)
5.関連記事
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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
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