借地権を売ろうとしても、売れない、場合があります。(*1)
もともと更地でも売れない土地の場合(場所が悪い、再築ができないなど)は、借地権でも売れないのは当然です。そうではなく、場所もよく、それなりの面積もあるのに、不動産仲介会社に依頼しても、売れないという話を聞きます。
ところが、そのような場合でも、競売の申立をして、希望する金額で借地権が売れる場合があります。たまたま、そんな買受人がいたということではなくて、第2順位以下、ずらりとそれなりの価格の買受人がいたりします。
ただし、競売で売るためには、借地が準共有になっている必要があります。共有者全員が同意している場合には、簡易裁判所の即決和解という、ごく短時間で終わる手続をやって、地方裁判所に競売の申立をすることができます。
ここでは、そのような借地権を売却するための競売の手続について弁護士が解説します。
ご相談もどうぞ。
(*1) 住宅地にある借地で面積が一戸建ての住宅用地としては広い場合などが売りにくいようです。商業地にあり、借地上にオフィスビルが建っているような借地の場合、容易に買い手が見つかり、高額で取引される例が多いようです。(▲本文に戻る)
【目次】
1.借地権は売りにくい?競売申立をした経緯
2.競売で売却するメリットと注意点
(1) 競売で売却できれば全て終了です
ア.通常は借地権者が承諾料を払います
イ.競売なら競落人が承諾料を支払います
(2) 建物の明渡も問題はありません
(3) 共有でなければなりません
(4) 競売だと安く買い叩かれないか
3.借地権を売るため競売の手続
(1) 簡易裁判所での即決和解
ア.即決和解(訴え提起前の和解)とは
イ.即決和解の申立
ウ.和解条項の内容
(2) 競売の申立
ア.競売の申立書
イ.予納金の納付
ウ.現況調査
エ.売却
(3) 剰余金の分配(配当)
4.関連記事
1.借地権は売りにくい?競売申立をした経緯
借地権(借地権付きの建物)は売りにくいという話を聞くことがあります。
しかし、借地権付きの建物を買い取って、そこで生活している人も普通にいます(相続や更新料などで相談に来られて、そのような話を聞きます)。つまり、借地権付きの建物(一戸建て)が普通に売買されているようです。また、商業地の借地権が高値で売買されて、その承諾料や別の話での相談も受けています。このことから、借地権が一般的に売りにくいとは言えません。
しかし、大手の不動産会社に仲介を依頼してもダメだったというケースがあったのでそれを紹介します(他にも同様の話は聞きましたが、とりあえず1件紹介します)。
このケースは、親が借地に住んでいて、子が共同相続しました。子らは独立して自宅があったため、借地を売ろうとしました。JRの駅に近い住宅地でそれなりに広い面積のある借地です。そこで、不動産会社に仲介を依頼しようとしました。
しかし、依頼を受けてくれる不動産会社がなかなか見つかりません。ようやく、大手の不動産会社が引き受けてくれて、専任媒介契約を結ぶことになりました。
その後、その会社は、借地権者に買い受け希望者の紹介をしますが、希望した売値の1/2以下の買い受け希望とか、買い受けの条件として、地主から抵当権設定の承諾がほしいとか(過去の経緯から地主の承諾が得られないことは明らかでした)、抵当権設定の承諾は不要だが、借地非訟はやりたくない(地主の言うがままの承諾料を払わないと売却できません)など、話にならない買取希望者しか紹介してもらえませんでした。
このため、何回も専任媒介契約の更新をしたのですが、1年近くもこんな調子で、もう不動産会社の仲介では、売れないと判断するしかありませんでした。
仲介会社は、地主にも借地の買取を打診しようとしましたが、地主の弁護士は、話を聞こうとさえしませんでした(競売申立後に買いたいとの希望がありましたが、期間入札後に地主の入札価格を見たら、本気で買うつもりだったとは思えませんでした)。
このため、裁判所の競売手続で、借地権の売却をしました。その結果、ほぼ希望額での売却ができました。たまたま、そのような買主がいた、というだけでなく、次順位以下も、相当額の買取希望価格での入札が行われていました。競売で、よい物件が出てこないか注目している業者が相当数いるのです(不動産業者以外、自己使用のために物件を探している事業者が買い受ける場合もあり得ます)。(*1)
(*1) 専任媒介契約を結ぶと、他の不動産会社の仲介で取引をすることはできません。しかし、自分で買い手を探して売ることはできます。競売の場合も同様です。これに対して、専属専任媒介契約の場合は、自分で買い手を探して売ることも契約違反になります。競売申立もできません。そのため、契約期間(3か月)が切れてから競売の手続をする必要があります。
2.競売で売却するメリットと注意点
(1) 競売で売却できれば全て終了です
ア.通常は借地権者が承諾料を払います
借地権の売買の場合、地主に対して、承諾料を支払う必要があります。地主が適正な承諾料(借地権価格の1割が裁判所も認めている相場額です)で承諾してくれるなら、話は簡単です(それでも、借地権価格がいくらかでもめる場合もあります)。
しかし、地主が承諾してくれない、または、高すぎる承諾料を要求される場合もあります。
この場合は、裁判所に、地主の承諾に代わる許可を求める裁判(借地非訟)を申し立てるのが通常の手段になります。しかし、この裁判は、平均で8か月かかると言われています(主な原因は、鑑定委員会が承諾料の鑑定をするのに時間がかかるからです)。このため、買い受け希望者が、そんなには待てないと言う可能性があります。(通常の借地権譲渡については、「借地権の譲渡と地主の承諾」をご覧ください。ページが飛ぶので、ここに戻る場合は、画面左上の「←」をクリックしてください。)
また、承諾料は、通常、借地権者が負担します。売買代金額が決まっても、そこから承諾料を引いた金額が、手取り金額になります。地主と交渉しないとこの金額が決まらないので、売買を決めた時点では、手取額が不確定です。
イ.競売なら競落人が承諾料を支払います
競売の場合、競売の手続の中で、地主の承諾を取る手続はありません。競売して、代金が納付された後で、競落人が、地主と交渉して、承諾をもらい、承諾料を払います。
また、地主が承諾しなかったり、承諾料の金額が折り合わない場合には、競落人が借地非訟手続の申立をします(代金納付から2か月以内に申立をする必要があります)。(競売に参加して借地権を買う場合の解説は、「借地の競売・競落人は要注意」をご覧ください。)
競売の申立をした借地権者は、競落人が代金納付をした後は、裁判所の手続の中で、剰余金の交付(配当と同じようなものです)という手続で、代金を受領します。それで終わりです。
万一、競落人が、代金納付から2か月以内に借地非訟の申立をしなかった場合(この場合は、競落人は建物買取請求権の行使ができるだけで、土地と建物は地主に明け渡す必要があります)でも、それは競落人の自己責任です。競売の申立をした借地権者が、責任追及されることはありません。また、何らかの理由で借地非訟の申立が認められなかった場合でも、同様です(限りなく0に近いという意味です)。
(2) 建物の明渡も問題はありません
競売の手続は、建物の所有権が競落人に移転することで終了します(移転登記は裁判所が法務局に嘱託します)。しかし、建物に占有者がいる場合、その排除は競落人が自分でやる必要があります(引き渡し命令などを利用することはできますが、申立は競落人がしなければなりません。強制執行の費用もかかります)。
期間入札の前に、執行官による現況調査が行われますが、調査後に占有者が変わるリスクもあります。ほとんどの競売は、物件と関係のない債権者の申立で行われる上、建物の占有者は、そこから追い出される立場なので、協力的ではありません。
ところが、共同相続した借地権の競売申立の場合、申立をした借地権者は、借地権付きの建物を売りたいので申立をしています。建物を明け渡すのは当然と思っています(建物が不要なので、競売申立をしているので、建物は空き家の場合が多いです)。そのため、建物はいつでも、明渡が可能な状態になっています(申立人は、その点を現況調査の段階で明確にすることが、買取希望者に対するアピールポイントになります)。不要になった家具等が置いてある場合もありますが、いずれにしても、占有者=申立人ですから、建物の明渡には協力的です。
弁護士が代理人として、競売の申立をする場合には、競売の代金納付があると、買受人から、弁護士に連絡があります。建物内の残置物の所有権放棄をして建物を明け渡すという書面と、建物の鍵を引き渡して、明渡は終了します。買受人が、現地での明渡を希望する場合には、現地で、内部を確認してもらい、鍵を交付して、明渡は終了します。
(3) 共有でなければなりません
競売は、支払いができなくて債権者から裁判を起こされてその判決に基づいて行われたり、抵当権の実行として行われるが普通です。それ以外に「形式競売」というものがあります。その一つに、共有物の分割の方法としての競売が認められています。
これら以外に競売は認められていません。
つまり、自分の借地権を売りたいから競売したいというだけでは、裁判所は競売の手続をしてくれません。共有物分割の方法で、競売申立をする必要があります。そのため、借地権が共有(正確には準共有)の状態でなければなりません。(*1)
また、抵当権実行の場合や公正証書に基づいて債権回収をするような場合を除き、裁判所の判決や和解調書がないと、裁判所は競売の手続をしてくれません(競売の申立ができません)。
そのため、共有の場合でも、共有物分割の裁判の判決や和解調書がないと競売申立ができません。公正証書で合意しても、申立はできません。(*2)
だからと言って、無理にデキレースのような形で裁判を起こして、判決をもらったり、その裁判の中で和解をする必要はありません。後でお話するように、共有者全員が合意している場合は、簡易裁判所の即決和解という手続で、和解調書が作成され、これを使って、競売の申立ができます。
(*1) 不要な借地権が発生する原因の1つが、相続です。そのため、遺産分割のときに、借地権と借地上の建物を、共有のままにしておく(法定相続分での共有の必要はありません)ことが競売で売却するために必要です。とりあえず、通常の方法で売却(任意売却)する場合でも、共有者全員が売主になれば、売却に支障はありません。(▲本文に戻る)
( *2) 公正証書で、強制執行の申立ができるのは、金銭債権について、公正証書の中に、強制執行ができると書いてある場合だけです。それ以外(不動産の引き渡しなど)は、公正証書で強制執行をすることはできません。(▲本文に戻る)
(4) 競売だと安く買い叩かれないか
競売になったら、非常に低い金額で売られてしまう、という誤解があります。
確かに、2000年ころまでは、安い値段で売られていましたが、その後、強制執行に関する法律(民事執行法)が整備されるなどして、次第に高額で売れるようになり、現在は、概ね市場価格に近い値段で売れるようになりました。
無論、通常の所有権でも、売れないような物件は、当然にそれなりの価格でしか売れません(場合によっては誰も買いません)。例えば、公道と接していない土地(建物が建てられない土地)などが典型です。
「競売物件は、通常価格の6割程度で購入できる」などとネットに書いてある場合があります。しかし、それは大昔の話をしているのか、誤解に基づく話です。
期間入札の前に公開される評価書(不動産鑑定士が物件を評価した書類)では、借地権と建物の評価額を出した上で、市場減価、競売減価をします。競売物件の場合、占有者がどうなっているのか分からないなど、代金納付後に色々な問題が起こるリスクがあります。また、借地の場合、競落後に地主に承諾料を払って、承諾してもらうか、承諾に代わる裁判所の許可の申立(借地非訟)をやる必要があります。そのような不確定な事項があるので、減価をします。
競売減価は、東京地裁の場合0.2ですが、市場減価も0.2にする例が多いです。そのため、本来の評価額の64%が基準価格になります(1-0.2は0.8なので、0.8×0.8で0.64です)。つまり、基準価格は、通常の評価額の6割程度です。
しかし、基準価格は、入札のための目安を示すものです。実際は、基準価格の2倍近い金額で落札される例が多いです。つまり、減価前の評価額での落札が多いのです。
借地の場合、落札後に借地非訟の申立をする必要があり、その手続の中で地主が介入権の行使をする場合があります。介入権とは、地主が自分に借地権と建物を売るように請求するもので、借地非訟の手続の中で認められています。
介入権の価格は、適正な借地権価格の0.9に建物の価格を加えたものになります。そのため、あまり、高額で借地権を落札すると、後で地主が介入権を行使して、競売の代金額よりも低い値段で地主に買い取られるリスクがあります(この点については、「借地の競売・競落人は要注意」の中の「介入権には注意しましょう」をご覧ください)。このため、減価前の評価額を基準にそれに若干上乗せする程度で競落する例が多いようです。
なお、共有者全員で借地権の競売の申立をする場合は、占有者など、競落後にトラブルになるリスクは少ないです(ほとんどないです)。その意味でも、高値で競落される傾向があると思います。しかし、前記の介入権のリスクもあるので、減価前の金額からあまりかけ離れた金額での競落はしにくいと思います。
その意味では、競売の申立をする共有者としては、評価書の評価額(減価前の評価額)が高くなるようにするべきです。具体的には、申立時点で、評価額が高くなるよう、資料を提出することが大事です。
3.借地権を売るため競売の手続
(1) 簡易裁判所での即決和解
先にお話したように、借地の準共有品が全員合意して、借地権を競売で売ろうとする場合、まず、即決和解をする必要があります。
ア.即決和解(訴え提起前の和解)とは
即決和解は、正式には「訴え提起前の和解」と言います。文字通り、訴えを提起する前に和解をすることですが、それを裁判所の手続で行います。裁判所での和解は、「裁判上の和解」と言います。
裁判外の単なる合意文書と違うのは、裁判官が、合意の意思を確認し、和解内容をチェックした上で、和解成立になることです(内容自体は、当事者が合意することですが、その内容を正式に法律上の言葉で表現して、適正に法律上の効力が生じるように、チェックします)。
和解が成立すると、後で、それを争うことができなくなり、また、和解調書によって、強制執行が可能になります。
公正証書も、金銭請求の場合は、強制執行ができると書いてあれば、強制執行できますが、金銭請求以外の強制執行はできません。それに対して、即決和解は、不動産の明渡、競売の申立その他の強制執行が可能です。
イ.即決和解の申立
即決和解も裁判所の手続ですから、申立で始まります。申立先は、簡易裁判所です。申立は、申立人と相手方が必要になります。申立人と相手方との間で、合意が成立したので、裁判所で和解をしたい、という申立をします。
共有者全員で合意が成立したのですから、全員で申し立ててもいいように思いますが、建前上、申立人がいて、対立当事者としての相手方がいて、その双方が和解をしたので、それを裁判所での和解手続にしてほしい、と申立をすることになります。
A、B、C3名の共有の場合には、誰が申立人で誰が相手方でもかまわないので、裁判所に出頭しやすいCが相手方になり、A、Bは申立人になって弁護士が代理人として裁判所に行き、Cと和解する、という手続をします。申立の前に合意ができたことを前提に申立をするので、裁判官の前での手続は、合意の確認になります(実際には、その前に、裁判所の書記官が、申立人代理人の弁護士に連絡して、確認作業をし、場合によっては文言の訂正を求めます)。
ウ.和解条項の内容
共有物の分割の方法の1つとして、競売して、売却代金を、共有持分に応じて、分けるという方法があります(裁判所が分けてくれます)。
共有物の分割の方法は、現物分割、全面的価格賠償分割(代償分割)などもあり、競売はその中の1つです。どのような方法で分割するのかを、共有者全員の合意で決めることができます(決まらない場合は、共有物分割の裁判を提起することになります)。
そして、共有者全員で、競売で分割しようと決まったら、即決和解の申立をします。申立書には、申立の趣旨として、「別紙「和解条項(案)」記載のとおりの和解を求める。」と書いて、和解条項案も提出します。
和解条項(案)は、裁判所の書記官から、訂正を求められるのが普通です(合意内容の変更は求めませんが、合意内容に即した文章になるように訂正するように求められるのが普通です)。
共有物分割方法として競売を求める場合は、東京簡易裁判所の即決和解の担当書記官は、手慣れたもので、和解内容は定型化されていて、東京地方裁判所の競売担当部(執行センター)で、通用する内容にしてくれます。
和解条項の内容は、次のとおりです。
①申立人ら及び相手方は、申立人らと相手方の共有である別紙建物目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を競売に付することに合意し、共同して又は単独で競売の申立てをする。
②申立人ら及び相手方は、前項により申し立てた競売にかかる本件建物の売得金から競売手続費用を控除した金額を、次の割合で分割する。(以下は、共有持分の割合が記載されます。)
これを見ると、どこにも「借地権」の記載がありません。単に、「建物」だけの競売の合意になっています。(*1)
借地権は、法律上、建物の付属物(おまけ)です。借地権が着いた建物の競売を求めると、当然に、借地権にもその効力が及ぶことになります。つまり、この内容で、裁判所に競売の申立をすると、まず建物の差し押さえの登記をしますが、差し押さえの効力は借地権にも及びます。その後も借地権付きの建物として、競売の手続が進みます(ただし、競売申立の段階で、借地契約書その他、借地権付きの建物だということが分かる資料を提出する必要があります)。
(*1) 借地権の場合、この形でないと即決和解も、競売の申立もできません。つまり、建物がないと先に進むことはできないのです。建物が古いから更地の方が有利かと思って建物の取り壊しをするのは、絶対にダメです。(▲本文に戻る)
(2) 競売の申立
ア.競売の申立書
東京の場合、東京地裁の執行センター(民事21部。霞ヶ関ではなく、目黒区碑文谷にあります)に競売の申立書を提出します(郵送します。書類の確認などの手続に時間がかかるため、裁判所も郵送で申し立てるようにとネットに書いてあります)。(*1)
申立書自体は、「申立人らは、東京簡易裁判所令和●年(イ)第●号訴え提起前の和解申立事件の和解調書に基づき、別紙物件目録記載の建物の競売を求める。」と書いて、和解調書の正本を添付して、申立をします。
この申立書の他に、東京地裁の執行センターでは、「不動産競売事件の進行に関する照会書」を提出する扱いになっています(これはネットで入手できます)。
そして、対象物件が建物のみの場合には「対象物件が建物のみの場合の競売事件に関する照会書」を提出することになっています。その項目の中に、借地契約書のコピーを提出するように書いてあります。これらの照会事項は、主に、第三者が債権者として、借地権付きの建物を差し押さえる場合を前提としています(第三者は、借地契約書を持っていなかったり、借地境界や占有者が分からなかったりします)。
競売を利用して借地権を売る場合には、借地契約書を持っていて、地代やその他の契約内容や、借地の範囲(借地境界の図面など)、借地上の建物の状態や利用状況(占有者の有無)など、詳細に理解しています。そのため、積極的にそれらの資料を提出する必要があります。
また、建物がそれなりに古くなっている場合が多いので、競売申立の前に建築士に依頼して、建物の状況を確認してもらい、期間満了までは朽廃(自然の経過で建物が朽ち果てること)がない、という意見を書いてもらい、また、建物内部の写真も撮影してもらい、提出する場合もあります(手続の中で、不動産鑑定士が評価の参考にします。老朽化が著しい場合には、基準価格が低くなります。その場合、入札者が建物の建替え予定でも、入札者の評価も低くなります)。
つまり、買い受け希望者に対して、場所の良さなどの他、契約がきちんとしていることや、借地の範囲に問題がないことなどをアピールするために上記の資料提出を利用します。
(*1) 即決和解の場合は、申立人と相手方の2当事者が必要になるので、持分権者の1人が相手方になりました。しかし、競売の申立は、共有者全員が申立人になれます。即決和解の和解条項の①にも「共同して又は単独で競売の申立てをする」と書いてあります。剰余金の分配(配当)のことを考えると、全員が申立人になった方が手続上、便利です。買い受けを希望する人の立場でも、全員が申立人になっている方が安心です。(▲本文に戻る)
イ.予納金の納付
申立書とその他必要書類を提出すると、裁判所から予納金納付の連絡があり、保管金提出書と振込依頼書が送られてきます。予納金は、80万円から200万円の間です(基本的には80万円です)が、これは強制執行の費用(不動産鑑定士に支払い費用を含みます)に使われます。余ったら、返してくれますが、手続途中で不足が生じた場合には、追加するように裁判所から言われます。
予納金の金額は、物件価格に基づきますが、具体的にいくらになるのかは、裁判所が教えてくれます。
予納金は裁判所が送って来た振り込み用紙で振り込みをします。そして、振り込んだ後で、必要事項を記載した保管金提出書,保管金受入手続添付書を裁判所に提出します。
予納金の納付が終わると、裁判所は、建物に差押えの登記をつけます。そこから競売の手続が始まります。
ウ.現況調査
競売の手続が進むと、執行官が現地に来て、土地や建物の状態や占有状況などの確認をします。
借地権を売るための競売の場合、現況調査までに不要な動産を片付けたり(現況調査の時に執行官が撮影した室内の写真が公開されるので、きれいに片付いた空き家の方がいいです)、修理しなければならない部分の修理をするなどした上で、執行官と待ち合わせをして(売るための借地の競売の場合、事前に連絡があり、日時の調整をします)、建物の鍵を開けて、執行官を案内する必要があります。
その後で、不動産鑑定士が評価書を作成しますが、現況調査を含めて、それまでに出した資料などに基づいて評価するので、特に、申立人が何かする必要はありません。
エ.売却
評価書が完成して、競売の準備が整うと、裁判所は、申立人に、三点セット(物件明細書、現況調査報告書、評価書)の公開の日、入札の期間、開札の日を通知します。
三点セットや開札情報は、裁判所が運営しているBIT(不動産競売情報サイト)に掲載されます。開札の日の午後には、当該物件の最高価格の買い受け価格が掲載されます。それで、いくらで売れたのか分かります(誰が買い受けたのかは掲載されません)。
その後、売却許可決定が出て、それが確定すると、代金納付期限が買受人に通知されます。期限ぎりぎりに納付するか、期限前に納付するのかは、買受人によりけりです。
借地権を売るための競売の場合、代金納付すると、買受人から、申立人の弁護士に、建物の明渡の手順の問い合わせがあります。登記は代金納付の翌日に裁判所が法務局に嘱託するので、それから1週間から10日かかります。しかし、裁判所が代金納付の証明書を出してくれるので、それでその買受人が代金納付をしたことの確認ができます。
建物内部の確認の必要があるかどうかは、買受人によりけりですが、いずれにしても、残置物があった場合は所有権を放棄して、建物を明け渡すという書面を交付して、建物の明渡は完了します。
なお、代金納付までは、地代を払う必要があります。その後は買受人が地代を支払いますが、振り込み先口座などは知らないので、それを教えてあげるとともに、いつの分までの地代を支払い済かも教えてあげます。
(3) 剰余金の分配(配当)
借地権の売却が終わり、代金も裁判所に入ったので、裁判所では、このお金を、共有者に分ける手続をします。
分け方は、申立書に添付した、即決和解の調書に、各共有者の持分割合で分配すると書いてあります。その内容で、分配します(弁護士が共有者全員の代理人として申立をした場合には、弁護士の指定した口座に全額振り込まれます。内訳書も送ってくれるので、それに基づいて分けます)。基本的には、共有者全員の分で、代金納付額と一致します。
強制執行の手続費用は、予納金から支払います。不足があれば追加予納金を入れるので、全額予納金から賄われ、余りがあれば、返してくれます(剰余金ととも予納金残額として返還されます)。
これで、手続は終了です。税金の申告は税理士に相談してください。
4. 関連記事
1.借地に関する記事全体について
このページの一番上(記事の上)をご覧ください。そこに、借地についてのこのホームページ全体の記事が表示されています。また、それらの記事のタイトルにカーソルを合わせると、各記事に関連する記事が表示されます。各記事(その下の記事)をクリックすると、それらの記事のページに移動します。
2.借地が競売になった場合、競落人には、借地ならではの注意事項があります。それについては、「借地の競売・競落人は要注意」をご覧ください。
3.借地権の共有物分割については、「共有借地の分割」をご覧ください。
4.借地を含めた、不動産の共有物分割については、「共有物の譲渡・管理の法律相談」の「共有物の分割の基礎知識」をご覧ください。
5.借地が共有になっている場合に、共有物分割の協議をしようとしたら、共有者の1人が亡くなり相続が発生した場合や、共同相続して遺産分割が未了のときに、相続人の1人が共有持分を第三者に譲渡した場合は、遺産共有と通常共有が併存している状態になります。これについては、「相続の法律相談」の「遺産共有と通常共有が併存する場合の分割手続」をご覧ください。
▲TOPへ
この記事は、2025年2月に書きました。
弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13 白井ビル4階 電話 03-3459-6391