※相続の基礎知識や相続・遺産分割一般については、「相続・弁護士による法律相談」をご覧ください。
※借地の相続の様々な問題については、「借地の相続」の各記事をご覧ください。
【目次】
1.借地権の遺産分割とは
2.借地の現物分割
(1) 複数の不動産の中に借地がある場合
ア.原則は通常の遺産分割と同じです
イ.地主の承諾は原則として不要です
(2) 1つの借地だけしか遺産がない場合
ア.通常は現物分割できません
イ.1つの借地を分けるには地主の承諾も必要です
ウ.分割する時の注意事項
3.借地の代償分割
4.借地の換価分割
5.借地の共有分割
ア.問題の先送りと言われますが
イ.競売を予定した共有分割
ウ.底地の共有は現実的な方法かも知れません
6.借地権が複雑な状態になっている場合もあります
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1.借地権の遺産分割とは
借地権の遺産分割とは、遺言がなく、遺産の全部または一部が借地権付きの建物の場合に、その借地権付きの建物を共同相続人の間で分けることをいいます。借地権は建物に付随していることになっているので、建物を分ければ借地権を分けたことになります。共同相続人間全員の協議で分割の方法を決めるのが原則ですが、決められない場合には、家庭裁判所の調停や審判で、分割することになります。
借地権の場合、基本的には土地の遺産分割と同じように考えることになります。つまり、土地と同じように、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の中から当事者の合意ができた分割方法を取ることになります。
しかし、借地は、地主との契約で成り立っている権利ですから、分割の方法によっては地主の承諾が必要な場合があります。つまり、借地に特有の問題があります。
2.借地の現物分割
(1) 複数の不動産の中に借地がある場合
ア.原則は通常の遺産分割と同じです
遺産の現物分割というのは、文字どおり、遺産の現物を分けることです。 (*1)
遺産分割は現物分割が原則と言われることがあります。これは、複数の遺産がある場合には、「問題がなければ」それぞれの遺産を、そのままの状態で共同相続人の間で分けましょう、という意味です。はっきり言えば、「原則」とはいえません。
遺産の中に複数の不動産があって、それらの不動産をそれぞれの相続人に分割できる場合(例えば、2つの不動産を2人の相続人がそれぞれ取得する場合)でも、不動産の価値に差があるのが普通です。そこで、預金があればそれを分けるときに不動産の価値の差額を調整します。預金で足りなければ価値のある不動産を取った方が、相手方に代償金を支払って処理します。
複数の不動産の中に、借地権付きの建物があったり、借地権の底地(土地所有権)があっても、評価の問題や、誰がどの不動産を取得するのかという問題はありますが、原則として通常の遺産分割と同じです(借地の評価については、「相続と借地権・底地権の評価額」をご覧ください)。
(*1) 「現物分割」という言葉自体、言っている人によって意味が違う場合があります。 例えば、遺産が、1つの借地権しかない場合に、1個のケーキを複数に切り分けるように複数に分けて、それぞれを1人の相続人が所有することにする場合を、現物分割と言う場合があります。しかし、このような分割方法は、適当でなかったり、そもそもできない場合が多いです。これを「原則」ということはできません。(▲本文へ戻る)
イ.地主の承諾は原則として不要です
共同相続人の間で、借地権を誰が相続しても地主の承諾は不要です(最高裁昭和29年10月7日判決) 。
遺言がない場合には、被相続人が亡くなると、一旦は全ての遺産が共同相続人の共有になるのが原則です。借地上の建物も共有になり、建物に付いている借地権も共有になります。そして、遺産分割協議の結果、借地権付きの建物が、ある1人の相続人のものになると決まると、他の共同相続人が持分を譲渡して、1人の相続人に全ての持分が集まって、その人の財産になります。
つまり、遺産分割協議というのは持分の譲渡です。借地権について言えば、借地権の共有持分の譲渡になります。
民法には、「賃借人は、賃貸人の承諾がなければ賃借権の譲渡はできず、承諾なしに譲渡すると解除される」という規定があります(民法612条)。
規定のとおりとすると、地主の承諾がないと、遺産分割もできないようにも思えます。しかし、共同相続人の権利は、もともとは1人の被相続人の権利を引き継いでいるので、共同相続人は互いに他人とは言えません。また、地主が不利になることもないので、承諾は不要とされています。(*1)
(*1) 承諾が不要と言っても、借地権はあくまでも地主と借地権者との契約です。地代の支払い名義人の問題もあるので、誰が借地権者になったのか、報告する必要があります。この場合に改めて契約書を作成する場合がありますが、借地権者の立場からすると、名義以外は、前の契約のままにしておくべきです。被相続人が生前に作成した契約書の内容どおりの契約が続くからです。
老夫婦が借地上建物に暮らしていて、夫が借地権者(契約上の名義人)になっていたのに夫が亡くなりました。その後、地主が依頼した不動産会社が妻のところに来て、「契約書を新しく作る必要がある」と言って、それまでになかった契約条項の書いてある契約書を妻に書かせたという話があります。新しい条項とは、「以後の更新の時には相場相当の更新料を支払う」というものです。妻は問題ないと思ったようです。しかし、「相場相当」と言っても客観的なものはありません。その後の更新の時に法外な更新料を請求されたとのことです。
このようなひどい話もありますが、地主の立場では、共同相続人のうち誰が借地権者になったのかは重要ですから(あいまいにしておくと将来面倒な話になります)契約書を求めるのは普通です。契約書の案文は地主が用意するのが普通です。借地権者が注意することは、不利な条項が追加されていないかどうかです。その場で契約書に署名等をしないで、一旦、契約書の案文を持ち帰って弁護士に相談することをお勧めします。
(2) 1つの借地だけしか遺産がない場合
ア.通常は現物分割できません
遺産が複数なく、借地権付きの建物がほとんど唯一の遺産の場合には、通常は現物分割はできません。通常は、代償分割することになります(代償分割については「借地の代償分割」をご覧ください)。
しかし、借地とその上の建物と言っても、色々な場合があります。比較的広い土地が借地になっていて、その上に建物が2棟建っている場合、1棟しか建っていないけれども、もう1棟建てられる余裕がある場合、すでに建っている1棟を取り壊せば2棟の建物が建てられる場合などがあります。このような場合には、借地を2つに分けるという現物分割が可能な場合もあります。 (*1) (*2) (*3)
(*1) ここでは、あくまでも、共同相続人全員の協力が得られるという前提でお話をしています。相続人全員が同意しない場合には、1つの土地を2つに分割する現物分割はできないと思った方がいいです。土地全体を測量して、分割する線を決めて、分かれた土地のどちらをとっても同じ価値になるという証拠がないと、審判で分割はしてもらえません(この点は、一般共有物を判決で分割する場合も同じです)。もめている場合は事実上、不可能です。測量図を出して、裁判官に分割線を決めてくださいと言っても、ダメです。同意がある場合には、どこで線を引いてどちらが取ってもかまいません。しかし、後でお話するように地主に不利益になる分割はできません。
(*2) 遺産分割ではなくて、通常の共有物分割の事案ですが、裁判所が判決で借地の現物分割を認めた例もあります(東京地裁平成20.10.9)。ただし、これは、共有者の1人が出した分割案(測量図に分割線を引いたもの)が合理的だと認められたものです。しかも、この共有者が土地の所有者(地主)を兼ねていた(地主が共有者から共有持分の譲渡を受けて借地の共有者になった)という少々特殊な事案です。
(*3) 新しくもう1棟建てる場合や、同時に2棟の建物を建てる場合ですが、1つの敷地の上には1つの建物しか建てられません。ただし、「1つの敷地」というのは、1筆の土地の意味ではありません。建築基準法で、1つの建物を建てられる土地のことです。1筆の土地でも、2つの敷地にすることができれば、2つの建物を建てることができます。2の建物を建てるためには、2つの敷地がどちらも道路に接している必要があります。
イ.1つの借地を分けるには地主の承諾も必要です
このように1つの借地を分け合う形で遺産分割をする場合、原則として地主の承諾は不要とされています(東京高裁平成14年9月4日判決)。
しかし、借地を分ける遺産分割によって、1つだった借地が2つになり、借地契約も2つになります。地代も2人の相続人が、それぞれ支払うことになります。このため、分割後の地代の金額をそれぞれいくらにするのか決める必要があります(合計額が分割前の地代を下まわってはいけません)。
また、借地の範囲も決めなければなりません。
このため、建前上は、地主の承諾が不要と言っても、事前に地主と協議して、承諾をもらう必要があります。後で地主が認めてくれればいいのですが、そうでないと確実にトラブルになります。
また、分割の仕方によっては地主の不利益が大きすぎるということで、地主の承諾なしにやると、解除される可能性がないとは言えません。
借地の一部譲渡(一部譲渡すると借地契約が2つになります)について地主の承諾に代わる許可を求めた借地非訟で、地主の不利益が大きいとして、許可されなかった例があります (*1) 。
借地の分割は、分割の結果、地主の不利益が大きい場合には、契約解除をされる可能性もあります。遺産分割自体に地主の承諾が不要としても、地主所有の土地(借地契約の目的物)の価値を損ねることは借地契約に違反すると言えます。
結局、1つの道路に沿って、四角い借地があり、それを半分に割る(必ずしも直線で割る必要はありませんが)ような場合でなければ、借地の分割は難しいと思います。(*2)
この場合、事前に地主の承諾が得られなくても、地主に不利益にならなければ解除されない(地主が解除すると言っても裁判所が認めない)ことになります。しかし、地主が借地契約が2つになったことを認めず、地代を受領しないなどのトラブルも予想されます。承諾が得られなければ、事前に解決しておきたいところです。
地主の承諾が得られない場合、東京地裁の借地非訟の担当部で許可をもらうことができるのか、例があるのかどうか調べましたが見当たりません(見つけられないだけかも知れません。なお、借地権譲渡の借地非訟については、「借地権の譲渡・転貸」の「地主が承諾しない場合」をご欄ください。ページが飛ぶのでここに戻る場合は、画面の上の左の「←」をクリックしてください)。
紛争の事前解決のためにも必要ですし、東京地裁の担当部では遺産分割の場合も借地権譲渡に該当するという扱いですから、申立は受け付けられるはずです。
この場合、共有になっている借地の一部譲渡について、承諾に代わる許可の申立をすることになります。しかし、譲渡承諾の申立は、譲渡する借地の上に建物が建っている必要があります。借地上に建物が2棟建っていて、それぞれの敷地を分割する場合はいいのですが、借地上に1棟しか建っていない場合には、後で取り壊して2棟建てる計画だったとしても、借地非訟手続を使うのは事実上、難しいと思います。
(*1) 分割した後、借地が2つになりますが、どちらの借地にも建物の再築ができて、土地の形がいびつにならなければ問題はありません。しかし、分割した一方の借地が、公道に接していないため建築基準法上、建物の再築ができなくなったり、土地が不整形になると、土地の価格が下がります。それは、地主に不利益を負わせることになります。借地の一部譲渡(借地上の複数の建物のうちの1棟の譲渡)の許可を裁判所に求めた事例ですが、地主の不利益が著しいとして、申立が却下された(地主の承諾に代わる許可がもらえなかった)例もあります(東京地裁昭和45年 9月11日決定)。 (▲本文へ戻る)
(*2) 3名の共同相続人が合意して、これを地主が認めて、1つの大きな借地を3つに分割した例を見ました。3名の共同相続人がそれぞれ建物の敷地として使えるようにきれいに分割され(3つのうち、1つは旗竿地で通路状の敷地がありましたが、それぞれが同じ価値になるように分割したとのことです)、その後の地主との関係も良好とのことでした。これなどは、代償分割が難しい例ですが(1人の相続人が取得するには広すぎる上、代償金が高くなります)、もともとの借地の形状、共同相続人の合意、地主の承諾があったので、うまく現物分割ができたと言えます。(▲本文へ戻る)
ウ.分割する時の注意事項
地主の承諾が得られて1つの借地を2つに分割する場合、借地契約も2つになるので、注意が必要です。
借地が広いのに建物が1棟しか建っていなくて、建物が建っていない部分も敷地として利用できるので、地主の承諾を得て、建物が建っている部分と、建物が建っていない部分に借地を分割したとします(建物が建っていない部分も、建物所有目的の借地になります)。この場合に建物が建っていない部分に新たに建物を建てるためには、地主の承諾(承諾してもらえない場合には裁判所の許可)が必要です(借地上の建物の建て替えについては「借地上の建物の建て替え(増改築禁止特約)」をご覧下さい。
また、建物が建っていない部分を相続した場合、いつか売ろうと思ってそのままにしていると問題になる場合があります。
①そのままの状態で第三者に売ろうとした場合、裁判所に地主の承諾に代わる許可の申立ができません(申立のためには建物が建っていて、その建物と一緒に借地権を売る必要があるからです。これについては、「借地の譲渡・転貸」の「地主が承諾しない場合(借地非訟)」をご覧ください(ページが飛ぶのでここに戻る場合は、上の左側の「←」をクリックしてください)。
②建物を建てないまま、借地契約の期間が満了した場合、地主が法定更新に異議を述べる(この場合は地主に正当事由は要求されません)と、借地権は終了します(これについては、「借地の法律の基礎知識」の「合意して更新期間を決めた場合」の(*2) をご覧ください。ページが飛ぶのでここに戻る場合は、上の左の「←」をクリックしてください)。
2棟の建物が建っている場合でも注意しなければならない場合があります。1つの借地内に自宅とすでに使用しなくなった工場の建物などがある場合です。工場が建っている土地を相続して、いつか取り壊して利用しようと思っていた場合、工場が朽廃すれば借地権を失う可能性があります(法定更新だった場合です。なお、朽廃寸前の場合、裁判所も増改築の許可をしないことがあります)。借地を分割する前は、2棟の建物のうち1棟が朽廃しても借地権が消滅することはないので、このような解釈には疑問がありますが、注意する必要があります。
3.借地の代償分割
遺産が借地上の自宅しかない場合などは、自宅に親と同居していた相続人(兄)が弟に代償金を支払って、借地とその上の建物の単独の所有者になるようにするのが通常です。これを代償分割と言います。簡単に言うと、他の相続人(弟)の持分を兄が買い取って借地と建物を自分のものにするということです。この場合も地主の承諾は不要です(*1)。
話を単純するため、他に遺産がない場合を前提とします。居住用の建物は、固定資産評価額で評価するのが普通かと思います。そして、建物の価格と借地権を金銭に評価して、その半分(法定相続分)が代償金の額になります。
ただし、代償分割は、代償金を支払う兄にお金がなければ不可能です。調停が成立しても兄が代償金を払わなければ、兄が相続で取得した建物とその借地を差し押さえて、競売して代償金を取るしかありません(債務不履行を理由に遺産分割協議を解除することはできません。最高裁平成元年2月 9日判決)。これでは最初から任意売却か競売で換価分割した方がましです。なお、家庭裁判所の審判では、兄に支払い能力があることが証拠で確認されない限り、代償分割できないとされています。
兄にお金がないなら、銀行から借りればいいと思うのが普通です。借り入れのためには担保が必要です。借地権を相続する兄は、借地権と借地上の建物が自分のものになるので、これに抵当権を設定して借り入れをして代償金の支払いをして、後は借金を分割で返していけばいいように思えます。法律上は、建物に抵当権を設定するのに地主の承諾は不要です。また、建物に抵当権を設定するとその効力は借地権にも及びます。兄ももともと半分の権利を持っていたので、借り入れる金額(代償金の金額)は、借地権価格の半分で済みます。まだ借り入れの余力があります。
このように考えると、銀行が問題なく貸してくれそうですが、現実にはそうは行きません。この場合に融資してくれない銀行が多いです(合理的な理由はないと思うのですが、建物の新築などしないと融資してくれない銀行が多いです。また、借地が担保では貸してくれない銀行もあります)。つまり、兄がお金を調達できない場合もあり得ます。
話し合いや調停の場合には、兄が長期分割で代償金を弟に支払うという内容で遺産分割を成立させることも可能です。しかし、弟がこれに納得しなかった場合(住宅ローンのように何十年になるような分割では納得を得られません)には、代償分割はできないことになります。
(*1) ここではあくまでも、遺産分割の手続ということで説明しています。遺産分割手続の中で、兄が弟の持分を買い取る形で代償分割をする場合には、地主の承諾は不要です。しかし、一旦、遺産分割が終わった後(例えば、共有のままにしておくという遺産分割をした後)、兄が弟の借地権の持分を買い取るためには、原則として地主の承諾が必要です。(▲本文へ戻る)
4.借地の換価分割
兄に代償金を支払うお金がなければ、借地を売ってお金にして、法定相続分で分けるしかありません。このような方法の遺産分割を換価分割と言います。
第三者に任意売却する場合は、地主の承諾が必要になり、承諾料を支払わなければなりません。承諾料は、借地権価格の10%が相場です。売買価格の10%ではありません(第三者への借地権の売買については、「借地権の譲渡と地主の承諾」をご覧ください)。
地主が買い取ってくれる場合もあるかも知れません。その場合には承諾料は不要ですが、地主には買取義務はないので、いくらで買ってくれるのかは地主次第です(多くの場合は、借地権価格を基準に交渉して売買が成立しますが、そうしなければならないわけではありません)。
任意売却ができなければ(共同相続人全員が同意しなければ任意売却できません)、競売することになります。
競売して価格分割するという審判が出た場合でも、裁判所が自動的に競売の手続をしてくれるわけでありません。競売を担当している裁判部に競売の申立をしなければなりません。
競売になった場合には、競落人(競売で物件を買い取った人)が地主に承諾料を払うことになります。買い取った後で、色々面倒なこともあるので、競売価格は低くなることもあります(借地権の競売については、「借地の競落人は要注意」をご覧ください)。
なお、競売の申立をしても、なかなか売れない場合もあります。物件によりけりですが、兄が住んでいるのに問題がなくても、第三者にとっては魅力がない物件というものはあります。通常の入札でも買受希望者が現れない場合には、特別売却ということで相当安く売却されます。
それでも、売れない場合には、分割未了のまま、兄が家の使用を続けることになります。そうならないように遺産分割の方法を考えなければなりません。兄が支払える範囲まで代償金額を下げることも考えなければなりません。
5.借地の共有分割
ア.問題の先送りと言われますが
遺産分割の方法として、共有のままにしておくという場合もあります。分割協議書を作成して、共有にしておく、という場合です。
ただし、共有のままというのは、遺産分割未了の場合と同じですから、通常は、問題の先送りに過ぎず、何の解決にもならないとされています。
しかし、相続したのが、収益物件(賃貸物件)の場合には、物件と借地権を共有のままにするという遺産分割にも意味があります。これは、物件を共同で管理して賃料収入を分け合うことを目的にしています。これは問題の先送りではなく、1つの解決方法です。ただし、分割禁止の約束をしても、その効力は5年間なので(更新できますが)、5年後に問題が蒸し返される可能性があります。
また、借地上に、共同相続人がそれぞれ所有する区分所有建物(マンションの小型版です)を建てるために、借地権を共有にしておくということも考えられます(借地上の建物を一旦共有にした上で、建物の再築をすることになります)。
この場合、増改築の承諾が必要になりますが、分譲マンションを建てるための増改築は、裁判所は許可しない取り扱いです(地主が承諾すれば可能です)。地主にとって法律関係が煩雑になり過ぎるというのが、その理由です。共同相続人がそれぞれ居住するためだけの区分所有建物の場合(専有部分が2ないし3程度の場合)には、特に地主に負担をかけることもないので、問題はないのではないかと思います。(*1)
(*1) 裁判所が許可するかどうかはさておき、親族間で区分所有建物を建てるのはあまりお勧めしません。この場合、マンションのように専有部分を第三者に譲渡することを予定する建物を建てることはありません。また、規約を作ることはありませんし、共用部分の管理も管理組合が管理するようなことは事実上できません。しかも、権利者2名では決議ができません。仲のよい兄弟の場合はいいのかも知れませんが、次の世代で1つの建物に暮らすのが嫌になったり、世代が変わらなくても仲が悪くなった場合には、借地と建物の分割をしたいと思うようになります。建物を共同で取り壊したり、処分できればいいのですが、そうでない場合はどうにもならない可能性があります。(2023年6月追記)
イ.競売を予定した共有
親が住んでいたが親が亡くなり、借地とその上の建物が遺産になる場合でが、居住者がいなくなり、相続人がその建物に住んだり収益物件として利用しない場合には、売却することになります。
ところが、大手の仲介会社に依頼しても、借地の場合はなかなかいい買い手が現れないことが多いようです(更地でも売れないような物件は論外です)。大手の仲介会社と言っても、借地の取扱に慣れていないことが多く、下手をすると借地権者(仲介の依頼人)に不利な買い手を紹介することもあります(借地の仲介専門の不動産業者もいるようですが、何とも言えません)。
しかも、買い手が現れても地主が金融機関の融資に協力しないことを宣言している場合には、目も当てられません。
ところが、競売では、資金力があって金融機関からの借入を予定していない買受人が現れて適正価格での売却ができる場合があります(物件によりけりです。およそ見向きもされない物件では競売でも売れません)。地主に対する承諾料は競落人が支払うので、もとの借地権者は、売却して代金が支払われればそれで目的達成です。
しかし、競売にするためには、借地上の建物とそれに付随する借地権が共有になっている必要があります。そして、簡易裁判所で共有物分割のための即決和解をして、競売の申立をすることになります(共有者が1人でも反対すれば即決和解はできないので、共有物分割の裁判で競売による分割を求めることになります)。
なお、遺産分割調停をやって、調停で競売による分割を合意する場合もあるかも知れません(この場合は遺産分割の手段としての競売になります)。しかし、共同相続人が合意している場合は、わざわざ遺産分割調停の申立をするよりも、共同相続人の間で遺産分割協議をして、簡易裁判所の即決和解の申立をした方が遙かに簡単で手続も速いです。なお、競売もやってみないと分からないところがあります。一般の仲介でまともな買受人が現れなかったという場合でないと、お勧めするのは気が引けます。そこで、遺産分割協議で、一般共有にするという遺産分割の合意を完了し、仲介に出して、それでダメなら競売を検討するのがいいかも知れません。(2024.11 追記)
ウ.底地の共有は現実的な方法かも知れません
遺産が借地ではなく底地(借地権が着いた土地の所有権)の場合、借地権者が買い取ってくれないと、「更地価格」マイナス「借地権価格」=「いわゆる底地価格」では、誰も買い取ってくれません。
地代は低い金額になっているのが普通なので、共同相続人間では、負の財産として押し付け合いになることもあります。評価額を底地価格とすると、その金額では売れないのに、他の遺産の取り分が減ります。引き取りたくありません。
相続税の申告は底地価格に基づいたとしても、遺産分割の場では違う評価額の主張をしてもかまいません。しかし、それでも引き取りたくない場合が多いと思います。
このため、共同相続人間で、底地だけ共有にして(他の遺産は普通に分割します)、分割後の地代を分け合うことも現実的な分割方法になります。
この場合、地代の管理の問題が残ります。通常は、共有者のうちの1人が代表者として地代の受領の窓口になり、地代が支払われたら他の共有者と精算することにします。
6.借地権が複雑な状態になっている場合もあります
これまでにお話した例は、被相続人(亡くなった人)が、借地権を持っていて(地主との借地契約で賃借人になっている)、その借地の上にその人名義の建物を建てている例を前提にしました。建物の所有者と借地権者が同じ場合です。
実際に、そのような場合が多いのですが、そうでない場合もあります。そうでない場合には遺産分割も複雑になります。
建物の所有者と借地権者が違う場合、そうなった理由は、様々です。
例えば、借地契約書を見ると、借地権者は亡くなった父親なのに、建物が父親と母親の共有になっている場合があります。
この場合は、父親が借地権者で、父が地主の承諾をもらって、母に借地をただで使用させて、建物の共有者にした場合が多いと思います(母は建物の共有者ですが、借地権の共有者ではありません)。父も母も亡くなった後で書類が見つからないと何が何だか分からないことなります。
これなどはまだいい方で、借地権者と借地上の建物の名義人が複雑に絡んでいて、借地権者は誰で、借地上の建物はどういう権利に基づいて敷地を利用しているのか一見して分からないようなケースもあります。間違うと遺産の中身(評価額を含めて)が違うことになり、遺産分割をやり直す必要が起こったり、相続人以外の第三者が権利主張をして、第三者とトラブルになる場合もあります。
複雑な話の時は、弁護士に相談することをお勧めします(複雑でなくても遺産分割で揉める場合には弁護士に相談することをお勧めします)。
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●共同相続人の間で、遺産分割協議をしようとしたら、その中の1人が自分の共有持分を第三者に譲渡していまった場合には、遺産共有と一般共有の併存という問題が起こります。これについては、「相続の相談」の中の「遺産共有と通常共有が併存する場合の分割手続」をご覧ください。
●上記の場合、第三者に共有持分を譲渡したことで地主から借地契約を解除される危険があります。この点については、「借地の共有持分の譲渡」の中の「第三者に共有持分を譲渡する」をご覧ください。
弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
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