親が借地上に建てた建物に同居していた相続人(Aとします )は、地代を払って、借地契約を続けようと思うはずです。
 ところが、親から離れて暮らしているAの弟(Bとします)は、地代がきちんと払われているか心配になります。
 Aが地代を支払わないで借地契約を解除されてしまうと、遺産がなくなります。兄弟仲に問題がない場合には、支払いをしているかどうか確認できますが、仲が悪くて、確認できない場合もあります。
 また、誰かが地代を支払わなければならないのは、理解できますが、本来、地代は誰が負担すべきなのでしょうか。Aだけでしょうか、AとBで半分ずつ負担するのでしょうか。

【目次】
1.誰かが支払わないと解除されます
2.地代は誰が負担する?
3.関連記事

・誰かが地代を払わないと解除されます

 親と同居していた兄と、親とは独立して生活していた弟が共同で相続した場合(つまり、相続人は兄弟2名)を例にします。この兄弟の仲がよくなく、弟から兄に連絡しても喧嘩になってしまい、地代を払っているのかどうか聞けないという場合があります。
 地代が払われない場合、地主は、地代を支払うように催告をした上で、それでも地代の支払いをしない場合には、借地契約を解除することができます(概ね3か月以上の滞納がある場合です)。
 しかし、借地権が共同相続されている場合には、共同相続人全員に対して、催告をして解除の通知をしないと解除は認められません。このため、弟が何も知らないまま借地契約が解除されてしまうということにはなりません。

 しかし、これにも例外があります
 親が亡くなった後で、兄だけが借地上の建物を使用し、地代も支払うのは珍しくありません。このような事例について、「他の相続人が賃貸借契約に関する一切の代理権を当該相続人に授与したと認められるような特段の事情がある場合」には、当該相続人に対してのみ、賃料支払いの催告や解除の意思表示をすれば足りるという裁判例があります(大阪地裁平成4年4月22日判決。ただし、相続開始後、6年間遺産分割が未了だった事案です)。

 つまり、弟が何も知らないまま、借地契約が解除されてしまうこともあり得ることになります。
 遺産分割未了の間は、建物は亡くなった親の名義のままになっているのが普通です。このため、地主には、借地の上の建物に住んでいる兄以外に、誰が相続人でどこに連絡すればいいのか分かりません。地主に相続人全員を探せというのは酷な話です。その意味では特に変な判決とは言えません。

 そこで、弟としては、このようなことのないように、地主に手紙を出しておくべきです。手紙には、「自分が相続人の1人で、兄が地代を支払わない場合には自分に連絡してほしい」ということを書きます。
 こうしておけば、上記の裁判例のように「兄に代理権を授与した」とは認められません。

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・地代は誰が負担する?

 どちらが支払ったとしても、兄と弟の間でどちらが最終的に負担するのか、という問題が起きます。
 親が亡くなった後の話ですから、遺産分割の問題ではありません(合意があれば、遺産分割調停の中で解決することは可能です)。

 兄にしてみれば、遺産分割がまとまるまでは借地権は共有状態なのだから、弟も半分負担するべきだと言うことになります。
 しかし、兄だけが親(被相続人)の生前から建物を使用していた場合、遺産分割がまとまるまで、弟に家賃を払う必要はありません(*1)。そこで弟にしてみれば、「家賃も払わないで家に住んでいるのだから、地代くらい払え」と言いたくなります。

 そこで裁判例ですが、弟の言い分のように、地代は兄だけが負担するという裁判例があります(東京地裁平成22年2月4日判決)。兄はただで家に住んでいるのですから、地代くらい負担するのは当然と言えば当然です。(*2) (*3)
 逆に、弟が地代を払ったとすれば、その分を兄に請求できることになります。

 ただし、これはあくまで地代を払ったことを前提として、兄と弟のうち、どちらが負担するべきなのか、という話です。兄が地代を払うのが当然だからと言っても、兄弟2人とも地代を払わなければ地主に借地契約を解除されてしまうことは、前にお話したとおりです。

(*1) 裁判例によると、親と同居していた兄は、親の生前、親とただで家に住む契約(使用貸借契約)をしていたとみなれされます。そして、親が亡くなると、遺産分割協議が成立するまでは、兄と他の共同相続人との間で建物の使用貸借契約が成立していたことになります(最高裁平成 8年12月17日判決)。このため、兄は、弟に家賃を払う必要がないのです。(▲本文に戻る

(*2) 建物使用貸借の借主は、そこを使うために必要な費用を負担しなければならない、とされています。必要な費用の中に、借地契約の地代も含まれます。(▲本文に戻る

(*3)自宅の一部がアパートになっている場合、アパートの収益(賃料)は遺産分割が終了するまでは兄弟で法定相続分で分けることになります。アパートの賃料が相当な額になるような場合などは、地代も法定相続分で分けるのが妥当な場合があります。このように、遺産分割前の管理費用を誰がいくら負担するのかは、具体的な事情を考慮して決めることになります▲本文に戻る

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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391